サウジアラビアと中国は2012年に原子力エネルギーの平和利用での協力に向けた条約を締結したほか、2017年には中国核工業集団公司(CNNC)がウラン鉱山探査でサウジを支援するとの覚書を交わしている。核開発疑惑で孤立するイランだけでなく、サウジアラビアでも、今年8月、政府は否認しているものの、中国の協力でウラン精鉱(イエローケーキ)を抽出する施設が建設されたとの報道があり、これらの動きに対してイスラエルやアメリカが懸念を表明している。
ここまで見てきたように、中国の近年の原子力政策は、原子力産業を手段とし、官民一体でそれを大規模に利用して国益を推進し、地政学的影響力を高め、自国に有利な状況を追求している。日本やアメリカは、中国やロシアの国際原子力市場における攻勢に対し、対応を問われている。
日本は中国やロシアに対抗できない
中国が原発を推進することによって生じうるリスクを最小化し、日本が国際社会への影響力を維持しようとするならば、日本が原発輸出を通して国際原子力市場にプレゼンスを確保しようとすることは有効かもしれないが、福島原発事故後、日本国内では原発への支持率が低く、柏崎刈羽原発なども再稼働が進まない状況を見ると、それは容易には決断できないことである。
また日米のような自由化した市場での民間主体モデルでは、安全対策コストや運用リスクの高い原発は経済性が相対的に低く、中国やロシアのような国家主導型モデルに対抗できず、不利な競争を強いられるのが現状である。原子力技術をめぐる難しい状況は今後も続くだろう。
(柴田 なるみ/アジア・パシフィック・イニシアティブ プログラム・オフィサー)
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