9月2日にも、新設プロジェクト2件を新たに認可し、海南省の昌江原発、浙江省の三澳原発へ、計700億人民元(約1兆872億円)以上が投資される見通しとなった。今回認可された2件のいずれも、同様に独自開発の「華龍一号」を採用する。
自国内での新増設とあわせて、原子力輸出強国としての存在感も大きく増した。中国は、2013年に原子炉の輸出強化方針を国家戦略として定め、「一帯一路」構想(中国が目指す経済・外交圏構想)と絡めて原発輸出を推進している。
また習近平政権は、2013年以降、原子力企業の統合を通して巨大原子力企業を生み出し、国策として原子力産業の国際競争力の強化を推進してきた。原子炉の国産化を進め、「華龍一号」のような加圧水型軽水炉(PWR)以外にも、モジュール型多目的小型炉(ACP100)や、第4世代炉と呼ばれるモジュール型高温ガス炉や高速炉の開発を進めており、これらを武器に積極的に海外の原子力発電所建設の契約を取り付けている。
2015年10月、中国広核集団有限公司(CGN)と中国核工業集団公司(CNNC)が、フランスのEDF社が手がけるイギリスのヒンクリー・ポイントの原発建設に出資を決定、さらにブラッドウェルに計画されている原発を受注し、「華龍一号」の建設が決定したことはその象徴的な1例である。
そのほかにも、アルゼンチンと「華龍一号」の建設で協力協定を締結、イランにも2基の原子炉を提供することが決定されたほか、パキスタンではすでに建設工事が進んでいる。東欧や中東、南米でも、中国が自主開発する各種原子炉や高温ガス炉の建設協力も進んでいる。中国のこのような輸出国としての影響力の増大は、近年の供給国側における構造変化の最大の特徴といえる。このような構造変化は、地政学的にどのような意味を持つだろうか。
安全保障、核セキュリティー上のリスク
原子力は、核兵器の獲得を可能にするという両用技術の特性から、極めて戦略性、政治性の強い技術である。原子力が、いくつもの困難を抱えながらいまだ多くの国によって導入が進められているのは、この極めて高い戦略性に由来する面も大きい。その点で、原子力の国際展開は単なる商業活動ではなく、重層的に国際安全保障とも密接に関わってくる。
例えば、低濃縮ウランは原発の燃料に、高濃縮ウランは核兵器の原料になりうるが、原子力技術で中国の支援を受けているイランは、核の平和利用を主張しながら、国内でのウラン高濃縮に固執し、これまでIAEAの査察を拒絶してきた。また、新興国を中心とする新たな原子力市場においては、人材や技術力、規制力の面で、自国での新増設も同時に進める中国がどれほど関与することができるかという懸念も残る。
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