外来種を悪とする「池の水ぜんぶ抜く」の疑問点 テレビ番組だけではわからない問題点もある

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番組内で、外来種との対決を過度にあおったり、目的化させたりしていないかも心配です。外来種の捕獲は「池を整備する」という目的のための手段、そのさらに一部分にすぎません。ところが、冒頭に挙げた副題のように、番組では「危険生物から日本を守れ!」「迷惑○○を全滅させよ!」「宿敵!」「怪物」「軍団」「地獄」などの表現があります。まるで外来種が親の敵、悪の権化かなにかで、それと人類の存亡をかけた戦いが演じられるかのようです。こうした番組を経て、「外来種=悪」というイメージだけが印象に残るのなら残念です。

反対に、まるで宿敵のように外来種を捕まえる様子を見て、「あまりにもひどい扱いではないか」「命を大事にしてほしい」と感じる人もいると思います。番組の印象だけで、かいぼりを「かわいそうな外来種の命を奪っている」とか「外来種いじめ」と受け取ったり、芸能人の「遊び」としか思えなくなったりすると、本来のかいぼりにまで、ネガティブなイメージを持ってしまうかもしれません。

元々は誰かが生息地から持ち込んできた

外来種の問題は、誰かが後始末をしなければなりません。それは敵討ちなどではなく、元は誰かが本来の生息地から持ち込んでしまったことによって起きた厄介事の尻ぬぐいです。

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専門的知識や技術が必要で、生態系の管理がわかっている人、生き物の特徴を知っている人が関わるからこそできるのです。そして、そうした人たちは生き物の魅力についても詳しい人たちです。取り組みながらも心を痛め、生き物に「申し訳ない」と思っている人も少なくありません。

「緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く」はかいぼりという取り組みの存在を広く知ってもらううえで、大きな効果をもたらしたと思います。せっかくですので、番組をきっかけにかいぼりというものを知った方には、よい資料や、参考になる取り組みがあることも知ってもらいたいと思います。市民参加型、地域主導型の、本来の形のかいぼりも、もっと皆さんの目に触れるようになればと願うのです。

小坪 遊 朝日新聞科学医療部記者

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こつぼ ゆう / Yu Kotsubo

1980(昭和55)年福岡県生まれ。京都大学大学院農学研究科修士課程修了後に朝日新聞社入社。松山総局、京都総局などを経て2013~15年に、福島総局で東日本大震災・原発事故の取材を担当した。

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