外来種を悪とする「池の水ぜんぶ抜く」の疑問点 テレビ番組だけではわからない問題点もある

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ここまで書くと、「緊急SOS! 池の水ぜんぶ抜く大作戦」について、いくつかの疑問や論点が浮かび上がってきます。

まず、かいぼりが、地元からSOSを受けて、番組主導で取り組みが行われている点です。かいぼりは池のメンテナンス作業。一度だけでは終わりません。事後の点検や、それで問題が見つかればさらに適切な処置を行う必要があります。特に悪影響のある外来種を駆除する場合は注意が必要です。例えば、ブラックバスを一気に取り除くと、それまでブラックバスが食べて数を抑えていた外来種のアメリカザリガニが急増する場合があることが知られています。

アメリカザリガニは、水草を刈り、水生昆虫のすみかを奪ったり、食べてしまったりします。そのため、一度だけかいぼりをして放置すると、一気に増えたザリガニによって、かえって状況が悪くなる場合があるのです。それを防ぐには、外来魚を取り除いた後も、ザリガニ対策が必要になります。一度では終わらないメンテナンス作業だからこそ、かいぼりは、地域が主体的、継続的に取り組む必要があるのです。

地域の力では継続的に行えないことも

ですが、同じ番組の企画で、同じ場所を何度もかいぼりすることは難しいでしょう。「巨大ハクレン軍団」などは、一度駆除してしまえば、誰かがまた大量に放流でもしない限り、再びカメラでとらえることは不可能です。「今年も無事に在来種が増えていることが確認されました」という、穏やかなため池の映像で、「宿敵カミツキガメ」よりも視聴率を稼ぐことは、難しいのではないでしょうか。

前回よりも「映えない」場面を撮りに行くテレビ番組なんて、私が担当者なら簡単にはOKできません。また、テレビ局の企画でないと実現できないような大がかりなかいぼりの場合、地域の力では継続的に行えないかもしれません。

事前の準備も心配です。時々絶滅危惧種などが発見されて、出演者が驚く場面が流れます。貴重な生き物が残っていたことは喜ばしいのですが、事前に池でサンプリング調査などをしていないのか、気になるところです。もし貴重な生物がすんでいるのであれば、一気に水を抜く前に保護することも検討するべきです。番組が事前の調査はなく、いきなり水を抜いて外来種を捕獲してそれっきり、ではないとよいのですが。

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