テスラが危なっかしいのに抜群の期待集める訳 EVベンチャーの「死の谷」乗り越え新境地へ挑む

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エンジンがモーターに置き換わることでパワートレイン(駆動部分)はシンプルになる。一方、現在は自動運転機能などで開発費がかさむ。量産のために金型や原材料を手当てして工場や熟練労働者も用意すれば、投資は100億円単位で膨らむ。

市場投入までこぎ着けても、パソコンよりはるかに値が張り、命を預ける製品である。ポッと出のベンチャーが造ったEVが売れるとは限らない。デザインや性能のカタログ値で運よく人気を集めても、次は量産の関門が待つ。しかも実際に販売するまで収入はない。

テスラと同時期に創業したEVベンチャーは大半が倒産した。最近でも中国のEVベンチャー、バイトンが経営難に陥っている。死の谷を渡りきったのは、今のところテスラだけだ。

テスラを支える「熱狂的なファン」の存在

テスラが驚異的なのは、出したモデルが着実にヒットしていることだ。それを支えているのが、熱狂的なファンである。その一端は貸借対照表にある「Customer Deposits」という項目からうかがえる。文字どおり顧客からの予約金のことで、19年12月末時点で7.2億ドル(約770億円)計上されている。

(出所)『週刊東洋経済』10月5日発売号「テスラVSトヨタ」

既存メーカーでも限定車などで予約金を取ることはあるが、レアケースだ。一方、テスラは予約金制度(モデルにより異なるが、モデル3なら1000ドル)を導入しており、新モデルの発表直後などには数年後の納入でも予約が殺到する。キャンセル可能とはいえ、予約金を払ってでもテスラ車に乗りたい消費者が大勢いるということだ。これによって生産計画が立てやすくなり、資金繰りも改善する。

もう1つ、テスラの追い風になってきたのが世界的な環境政策だ。環境に優しいとされるEVに対して、多くの国や自治体が補助金を用意しており、テスラもその恩恵を受けてきた。

加えて、米カリフォルニア州などは走行時に排ガスを出さない車(ZEV)を一定台数販売する義務を自動車メーカーに課している。規定台数に達しない会社は罰金を払うか、余分にZEVを販売した企業から排出権(クレジット)を購入しなければならない。

中国や欧州でも似た制度が導入されており、EV専業のテスラはこのクレジット販売で稼ぎまくっている。2020年4~6月期のクレジット収入は4.2億ドル。黒字化への大きな力となった。

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