テスラが危なっかしいのに抜群の期待集める訳 EVベンチャーの「死の谷」乗り越え新境地へ挑む

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(出所)『週刊東洋経済』10月5日発売号「テスラVSトヨタ」

さらには、前述のようについに大衆車市場にも攻めこむ。これで株価上昇にさらに弾みがつくかと思いきや、当日と翌日の2日で株価は15%落ち込んだ。過剰な期待を織り込んだ市場を満足させるのに十分な内容ではなかったのだ。

テスラを待ち受ける険しい前途

このことはテスラが置かれた難しい立場を象徴している。これまでは将来のビジョンと革新性を示せば評価されたが、これからは実際に収益を上げることを求められる。4000億ドル近い時価総額を正当化するのは並大抵ではない。株式市場がテック企業として評価していたとしても、プラットフォームやデータで稼ぐ、乗数的に収益を増やす明確な道筋は示されていない。収益拡大にはEV販売を積み上げる必要がある。

アメリカに続き、昨年12月末には中国・上海工場が稼働した。来夏には、独ベルリンに建設中の工場も竣工する予定だ。そうなれば年間の生産能力は100万台に達する。逆に言えば、それでもまだ100万台でしかない。販売台数増のために廉価モデルを増やしていけば、平均単価とともに1台当たりの利益額も低下が避けられない。熱狂的なファン以外にも顧客層が広がっていくため、性能や品質に対する消費者の視線も厳しくなっていくはずだ。

リスクを挙げれば切りがない。ただ、どんなリスクもテスラなら、いやマスク氏なら乗り越えてしまうと思わされるのも事実だ。

これまでも、苦戦したモデル3の米国での量産を陣頭指揮で突破。自動車生産で外資は現地企業との合弁しか認めてこなかった中国政府に、独資による進出を認めさせた。2018年にはツイッターで株式の非上場化を示唆する事件も起こしたが、ほかの経営者なら失脚するスキャンダルが彼にとっては致命傷にならない。

マスク氏の掲げるビジョンは「人類全体の持続可能性」。スペースXは地球だけにとどまらない未来のため。テスラは持続可能なエネルギー社会をつくるため。EVはそのピースの1つにすぎない。そうした壮大なビジョンに引き寄せられ、「マスク氏の下で働きたいと優秀な人材が集まってくる。他社で5年かかることが、テスラなら1年半で実現できる」(元テスラ幹部のカート・ケルティー氏)。

時価総額だけでなく収益力でもテスラがトヨタを超える日は来るのだろうか。

週刊東洋経済』10月10日号(10月5日発売)の特集は「テスラvs.トヨタ」です。
山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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