KDDIのJCOM「買収」、大胆な経営判断が裏目に
しかし、問題含みとされている今回の買収方法を合わせて考えてみると、話は違ってくる。
「KDDIほどの大企業がこの一文の持つ意味の大きさを理解せずに判を押したとは思えない。危ない橋を渡っているなというのが正直な感想」(M&Aに詳しい大手法律事務所の弁護士)。法の抵触を理由に契約の完全履行が困難になった場合でも、KDDIは保証を盾に取られ、リバティから多額の賠償金を請求される可能性がある。
大きなリスクを冒してまで、なぜ買収に踏み切ったのか。それはNTTに通信インフラの急所を握られた同社にとって、JCOMがノドから手が出るほど欲しい存在だったからにほかならない。
巨額買収に伴うリスク 問われる判断の妥当性
KDDIの小野寺正社長は、買収と合わせて発表した決算会見の席上、「JCOMの固定回線(アクセス回線)を生かし、NTTへの依存度を下げたい」と語った。
これまでCATVや電力系の通信事業を次々と買収してきたが、現状でも各家庭へ直結する自前の高速通信インフラが乏しい。やむなくライバルのNTTからアクセス回線を借り受けてブロードバンド事業を展開しているものの、回線使用料がべらぼうに高いことが悩みの種だ。
たとえば、戸建て用光インターネットの場合、ユーザーから徴収する月額7258円の料金のうち、7割超がNTTへの回線使用料で消えていく。「これでは誰のために営業しているのか、わからない」(小野寺社長)。脱NTT依存の道を模索する中、人口密度の高い関東や関西を中心に1200万世帯分の自前アクセス回線を擁するJCOMは魅力的に映る。
ただ、3600億円かけて得られる効果を疑問視する声は少なくない。そもそも、3割超の株式を取得できたところで、本当の意味で支配権を握れるわけではない。大株主になることで手に入るのは、会社の合併や解散など重要事項を拒否できる権利だけ。取締役の選任や辞任といった権限を持ち、実質的に会社を支配するためには、5割以上の株を取得し、自身のグループ内に取り込む必要がある。