KDDIのJCOM「買収」、大胆な経営判断が裏目に

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白紙撤回が難しい売買契約の縛り

TOBを介さない今回のスキームは売り手・買い手の双方に都合がいい。KDDIがつけたJCOM株1株当たりの実質的な価格は約14万円。発表直前の株価に6割以上のプレミアムを上乗せした。通常の買収では2~3割が相場だけに、大量の保有株を高値で一括売却できるリバティ側のうまみは大きい。KDDIもたった一度の取引で38%の株式を取得し、たちまち筆頭株主になれるというメリットがある。

だが、これでは他の株主が蚊帳の外。支配権にかかわる重要な株式取得に透明性を持たせ、かつ全株主に平等な機会を与えることを目的としたTOBルールの趣旨に反する。

「今回のケースは、実質的にTOBを回避するために中間持ち株会社を買うとしか思えない。本来ならばTOBをやるべき案件だと思う」(野村総合研究所の大崎貞和主席研究員)という見方は当然出てくる。

発表後、金融庁も調査に乗り出すなど手法を問題視。当初予定のまま同社が取得に踏み切り、「クロ(違法)」と判断されると、最大で買い付け金額の4分の1、900億円規模の課徴金を課される可能性がある。

こうしたおそれが出てきた中、買収計画の見直しを迫られているが、残された選択肢も限られる。

仮に6割以上のプレミアムを提示してTOBに切り替えれば、応募者が殺到し、総額1兆円規模の資金を要することが確実。とても現実的な手法ではない。かといって、買い取り株数を減らす、もしくは白紙に戻すことも難しい。売買契約がネックになるからだ。

リバティが米当局へ提出した書類を見てみると、売買契約の中には、今回の取引が法規制に抵触しないことをKDDIが保証する旨の一文が記されている。一般的に、保証項目としてこうした内容を契約に含めること自体珍しくはない。

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