セールスフォースが驚くほど信頼を重視する訳 「自分たちさえよければよい」という発想はない

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

この例えは、「苗木」を「信頼」に置き換えてみるとわかりやすい。

小さな苗木も信頼のようなバリューも、華々しい業績を示すグラフや、最も高い木にはならないかもしれない。だが、そうした苗木をいくつも一緒に育てていけば、最終的に大きな樹木へと成長するということだ。

企業文化に根づく「オハナ」

ベニオフがこうした視野の広さと包容力を身に付けるに至った要因はいくつもあり、本書ではそれらが開示されているわけだが、とくに印象的だったことがある。彼の内部に根を張るハワイの「オハナ」という概念が、セールスフォースの企業文化に大きな影響を与えているという事実である。

私が最初にオハナを知ったのは、子どもの頃に家族と夏休みにハワイを訪れたときだ。この場所はいつも楽しく平和的だと感じた。大人になると、オハナはお互いに責任を持ち、共通のバリューで結ばれた集団を意味するようになった。それが、私が最初からセールスフォースに求めていた企業文化である。あらゆる人を受け入れ、私たちが行うあらゆることの根底にあるものだ。(193ページより)

多くの人にとって、最終的に信頼できるのは自分の家族であり、家族のいる場所ではないだろうか。ベニオフはそこに注目し、その考え方をセールスフォースという企業の運営に生かしているのだ。

もちろん、大切であるはずの家族に失望させられることだってあるだろう。ましてや、家族が企業文化の完璧なモデルとなりうるとは限らない。しかしそれでも彼は、企業とそこで働く人々について考える場合、自身が思いつく最も近い例は家族だと断言しているのだ。

先述したとおり、程度の差はあったとしても、企業経営者はとかくイノベーションに価値を置きたくなるものである。だが、その根底にはまず信頼があるべきなのだ。信頼を形成する何よりも重要なファクターが、家族のような結び付きなのだから。

日本に古くからある「同じ釜の飯を食う」という言葉にも通じるが、いまこそそうした概念が強く求められるべきなのかもしれない。ある意味においては泥くさくもあるベニオフの主張は、そんなことを改めて考えさせてくれるのである。

(敬称略)

印南 敦史 作家、書評家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

いんなみ あつし / Atsushi Innami

1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。「ライフハッカー・ジャパン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」「文春オンライン」などで連載を持つほか、「Pen」など紙媒体にも寄稿。『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(PHP文庫)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)、『先延ばしをなくす朝の習慣』(秀和システム)など著作多数。最新刊は『抗う練習』(フォレスト出版)。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事