ソフトバンクG、巨額の上場株投資に見えぬ戦略 孫正義氏は膨らむ「軍資金」を何に使うのか

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エヌビディアの株価は2018年9月末に281ドルだったが、仮想通貨のマイニング向けの半導体需要が急減したことなどにより、3カ月後の12月末には134ドルと半分以下に急落した。だが、SBGは「カラー取引」と呼ばれるデリバティブ取引で下落リスクを保全していた。これは株価の値下がりを見越して「プットオプション」(あらかじめ決められた価格で株を売却できる権利)を買い、値上がり益を放棄してコールオプションを売ることでプレミアム(権利料)収入を確保するというものだ。

今回の報道で明らかになったコールオプションの買いは、株価の値上がりを見込んで含み益を一段と増やそうとする投資行動だ。ただ、別の海外メディアの続報によると、SBGはコールオプションの売りも組み合わせ、株価下落時のリスクについても一定の保全しているもようだ。いずれにしても、デリバティブを組み合わせて推し進める巨額の上場株投資の先に孫氏が何を描いているかは見えてこない。

投資運用の新会社が設けた12年というファンド期間は、未上場株投資の「10兆円ファンド」であるビジョンファンドと同じ。SBGは「ビジョンファンドに並ぶ主要なエンティティ(事業主体)として位置づけている」としている。

SMBC日興證券の菊池悟アナリストは、「上場株投資の規模が大きくなれば、ナスダック指数と連動するファンドを買うのと変わらなくなり、投資家にとってSBG株を買う意義がわかりづらくなる」と指摘する。孫氏の目利きによる世界中のベンチャーへの投資を担うビジョンファンドと異なり、上場株投資は「なぜSBGがやるのか」という疑問が浮かぶ。

膨らむ投資の原資

そうした中、投資の原資となる現金は膨らむばかりだ。4.5兆円の資産売却プログラムにほぼメドをつけたうえ、8月28日には通信子会社ソフトバンク株約1.4兆円分の売却を発表した。さらに孫氏は傘下のイギリスの半導体企業、アームの株式(保有価値は約2.7兆円)の売却を検討し始めたことも認めている。

ビジョンファンドの投資損益は1年前に200億ドルあったが、直近では20億ドルと10分の1の水準まで減少した。2号ファンドも外部投資家を集められず、SBGの自己資金で運用している。ファンドを通じた海外ベンチャーの投資にかつての勢いは見られない。「もはや投資会社だ」(孫氏)というSBGは、上場株投資をさらに増やすのか、それとも別のターゲットに照準を合わせているのか。少なくとも巨額の軍資金を金庫に寝かすようなことはないだろう。

中川 雅博 東洋経済 記者

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なかがわ まさひろ / Masahiro Nakagawa

神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2012年、東洋経済新報社入社。担当領域はIT・ネット、広告、スタートアップ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど海外企業も取材。これまでの担当業界は航空、自動車、ロボット、工作機械など。長めの休暇が取れるたびに、友人が住む海外の国を旅するのが趣味。宇多田ヒカルの音楽をこよなく愛する。

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