タイ発「BLドラマ」が大ブレイクする納得の事情 LGBTに寛容な社会の背景にあるものとは

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とはいえ、タイ社会でも同性愛、LGBTへの差別は厳然として存在する。兵士、警察官、司法関係者、公務員、大企業などへの任官、就職には「暗黙の差別が存在する」といわれているのも事実だ。年長者の中には「前世の行いが悪い人が現世で受ける報いがLGBTである」と公言する人もいて、仏教の輪廻転生の中でも「差別」を受けている。

また、タイでも深刻なHIV感染と同性愛を無造作に結びつける考え方も根強く残り、それが差別を助長している側面もある。

「LGBTの人たちと友人としては普通に接することができて違和感はないが、家族にそういう人がいるとどうしても困惑してしまう」という考えを持っている人も少なからず残っており、同性愛やLGBTがタイ社会でも完全に市民権を得ているわけではないことを示している。

エンタメ以外の世界でもLGBT採用が広がっている

それでも近年は、社会構造が少しずつだが変容してきている。2019年の総選挙ではタイ史上初のLGBT議員が4人誕生し、同性婚法案を可決させるために活動を強化している。

航空会社でも客室乗務員(CA)のLGBT採用が始まったほか、主要大学では公式行事以外での「自認する性」に基づく制服の着用が認められつつあり、レディボーイ専用のトイレを設置する大学も現れている。2015年にはタイ赤十字研究センターが運営するトランスジェンダー専用の医療機関も設立された。

このように、エンターテインメントの世界や美容・理容業、飲食店業、娯楽業などに限定されていたLGBTの人々が活躍できる場が、タイ社会では確実に増えてきている。

こうした中で、BLが小説から映画、ドラマの世界にまで広がり、男女を問わないタイの若者の心をつかんで市民権を得ていること、そして、多くの国で「タイ流」ブームとしてファンを増やしつつあることは、タイのみならず、世界中でLGBTへの寛容性が一段と高まるきっかけになるのではないだろうか。

大塚 智彦 フリーランス記者(Pan Asia News)

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おおつか ともひこ / Tomohiko Otsuka

1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からはPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材執筆を続ける。現在、インドネシア在住。著書に『アジアの中の自衛隊』(東洋経済新報社)、『民主国家への道、ジャカルタ報道2000日』(小学館)など。

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