「脳腫瘍で別人格」40代男性を支えた妻の受難 夫の介護と子育てをしながら公務員になった

✎ 1〜 ✎ 9 ✎ 10 ✎ 11 ✎ 12
拡大
縮小

高次脳機能障害は、すぐにリハビリをすれば多少は回復することがあるため、大学病院を退院後はリハビリセンター付属病院に移り、2カ月間入院して生活支援のためのリハビリを受けたが、一度損傷を受けた脳はあまり回復することはなかった。

地方公務員に転職

新田家はもともと共働きだった。夫が脳腫瘍になる前は、夫のほうが残業が多かったため、新田さんが家事育児を担っていた。

脳腫瘍が発覚したとき、新田さんがまず最初に襲われた不安は、生活のことだった。

当時はまだ長女が高校2年、次女が小学5年。新田さんはパート(非正規公務員)で働いてはいたものの、年収は200万円もない。

そこで新田さんは、収入を上げるために転職活動を開始。新聞に公務員試験の募集記事が載っているのを見つけ、即申し込みをする。

試験まで1カ月ほどしかなかったが、仕事後帰宅し、一通り家事を終えると、毎晩公務員試験の問題集を解いた。数学が苦手な新田さんは、高校生の長女に解き方を教えてもらった。

そしてみごと合格し、翌年、地方公務員(行政事務)に転職。

しかし、経済的な安定は得られても、パートタイムからフルタイムに働き方が変わったため、仕事の責任は重くなり、残業も増え、介護・育児と仕事の両立に悩む。

「私の父は11年前に亡くなっており、母や妹は心配はしてくれていますが、母は昔から体が弱く、病気がちなので頼れません。妹は2人の子どもがまだ小さく、育児でいっぱいいっぱいです。夫の親やきょうだいの協力はほぼ得られず……。

たった1人でダブルケアをこなす心身ともに苦しい状態が続き、ものすごく孤独でした。でも、介護も育児も仕事も待ってくれません。『誰か助けて!』といつも心の中で叫んでいました」

新田さん夫婦は当時40代。周囲に介護をしている人はおらず、ダブルケアのつらさに共感してくれる人はまったくいなかった。

「悩みを相談する相手はなく、さらに“娘たちの父親代わりにならなくては”というプレッシャーや責任も加わり、押し潰されそうになっていました」

次ページ夫の介護に明け暮れる毎日
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT