「脳腫瘍で別人格」40代男性を支えた妻の受難 夫の介護と子育てをしながら公務員になった

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娘たちの周囲にも、父親が病気で介護が必要な友だちはいない。家庭での悩みや愚痴を友だちや先生にも言えず、2人ともつらい気持ちを抱えていた。


高次脳機能障害者の介護

脳腫瘍の手術前後は2回とも自宅療養がほとんどだったため、夫が家で家事をし、新田さんが外で働くという役割分担をしていた。

「高次脳機能障害者の介護はさまざまですが、夫の場合は、自分がしたことをすぐに忘れてしまうため、冷蔵庫を閉め忘れたら閉め、コンロの火を消し忘れたら消し、玄関のドアが開けっぱなしなら閉め、トイレの水を流し忘れたら流すなどの生活全般を見守り、できないことを助けることと、暴言・暴力に対応をすることが主な介護でした」

娘が家にいるときは娘が夫を見守り、何かトラブルがあればその都度対応し、新田さんが帰宅すると不在の間の夫の様子を伝えてくれた。

「主な介護者は私ですが、私は生活のために働かなくてはなりません。私が仕事で遅くなるときは、夫が何かをしでかさないように、娘たちが夫の見守り介護をしてくれました。本当は友だちと学校生活を謳歌してほしいのですが、父親の介護のために帰宅せざるをえない毎日です。こんなにつらく悲しいことはありませんでした」

自宅療養中に夫は、「家計を任せてほしい」と言い出した。新田さんは反対したが、高次脳機能障害になった夫は、怒り出すと手がつけられない。

仕方なく夫と新田さんの給料が振り込まれる新田家の銀行口座の通帳とカードを預けたところ、食費だけで月に10万円以上使ってしまう。冷蔵庫には同じものが何個もたまり、食べきれずに腐って捨てる……という悪循環に陥る。しかし家の通帳とカードを返すよう言うと、すごい剣幕で反論してくる。

またあるとき夫は、「買い物に行くのに新しい自転車が欲しい」と言って自転車を買ったが、鍵をかけることを忘れ、買った翌日に盗まれてしまう。

代わりに長女の自転車を借りたが、今度は自転車に乗ってきたことを忘れ、帰りは歩いて帰ってくる。夫が自転車をなくすたびに、新田さんは娘たちと自転車を探しに行った。

さらに、家の通帳とカードを握った夫は、新田さんにお金をほとんど渡してくれないため、化粧品や生理用品を買うこともままならない。そのうえ、大学生になった長女の教育費も「払いたくない」と言い始める。仕方なく新田さんの個人的な貯蓄を取り崩して長女に渡していたが、貯蓄も底を尽きる。

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