その村は、セネガルの首都のダカールから、車で5時間くらい走ったところにある半砂漠地帯にありました。電気は幹線道路沿いの家にしか通っていません。水道はなく、水は井戸からくみ上げます。村では、隊員さんが、農業活動を一緒にやっている村の人の家や、村人が買い物をしている小売店、市場などを案内してくれました。
そこでいちばん印象に残っているのが、家畜の日曜市です。
周辺の遊牧民族たちが、家畜を連れて集まり、何百頭という牛や羊が並び、売買が行われ、とてもにぎやかな市場です。
取引が行われるのを見ていると、遊牧民族のおじさんが、お釣りを出すためにポケットから、札束を取り出しました。その札束がなんとも分厚く、僕はびっくり仰天しました。2000円くらいの価値の紙幣が、10~20枚はあったでしょうか。まさか、電気や水道へのアクセスもままならない貧しい村で、こんな大金が動いていたとは!
家畜で貯金したほうが、銀行に預金するより安心!?
早速、隊員さんに質問すると、彼は次のように説明してくれました。
「セネガルの村人の貯蓄というのは、銀行に行くことではなく、家畜を買うことなのですよ。銀行やマイクロファイナンス機関の事務所は、村から遠いので、不便です。銀行まで、馬車やバスに乗って交通費をかけて出向き、手数料を取られて預金口座を作り、ゼロに近い金利収入を得るよりは、数カ月で体重が何倍にもなる子牛を買ったほうが、よほどリターンが高いし安心です」
「また、現金を貯めていると、おカネが必要になった親戚や友人たちに、『母親が病気になったから医療費が必要だ』とか、『イスラムの犠牲祭のための羊を飼うおカネがない』など、緊急の支払いために、おカネを貸してくれ、と言われることが多くなります。
団結を重んじるセネガルの文化では、近しい人から助けを求められたら、断ってはいけないのです。なので、現金を持っていたら、もっていかれてしまう。そういった事態を避けるため、セネガルの村人は、現金をなるべくモノに変えて貯めようとするのです。その代表例が、牛。
そうやって村人が牛で貯蓄をすると、牛を預かって太らせ、成長した牛を取引する遊牧民族は、あたかも銀行のような役割になり、現金をたくさん持つことになるんです」
無料会員登録はこちら
ログインはこちら