元特殊部隊員が「尖閣諸島」に隠密上陸した事情 異色の書き手が語るドキュメント作品の舞台裏

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左から伊藤祐靖氏と成毛眞氏(写真:菅野 健児)

伊藤:42歳で自衛隊をやめた後は、3年半フィリピンのミンダナオ島に住んで、帰国後は警備会社などのアドバイザーを務めつつ、警察や軍隊への指導で世界を巡ったり、国内でも私塾を開いて後進を育てたり、3年位前からは発達障害の子どもたちのお手伝いもしたりしています。

成毛:読者のみなさん、実はこのプロフィールの行間がすさまじいですからね(笑)。ぜひ、伊藤さんのほかの著書も手にとって欲しいです。

ご自分の体験を書かれているから臨場感があって、前のノンフィクションも面白く読みました。ただ、そこでは守秘義務の壁があり書けないことが多くて、今回はフィクションを書かれたと聞きました。まず、冒頭の尖閣諸島魚釣島の状況と描写がすさまじい。読むとすぐにわかるんだけど、伊藤さん、実際に山頂まで登っています……よね?

伊藤:はい、山頂付近に国旗を掲げに行ったことがあります。

「魚釣島」上陸の経緯

成毛:どう考えても実際に登っていないと書けないシーンですよね。とは言っても、そう簡単には登れないはず。法律的にも難しいはずだし、そもそも大洋を泳いでいった先が岩山だし、人の手が入っていない原始の植生に足を入れるのは週末登山家では無理です。上陸の経緯をうかがってもいいでしょうか。

ええっと、まずは、最寄りの空港はどこですか?(笑)

伊藤:石垣島まで飛行機で行き、そこから漁船に乗って魚釣島周辺海域に行きました。このときは、寄付金を募って石垣島などの漁師さんを支援して魚釣島周辺で漁業をしようという活動がありまして、何度か以前にも足を運んだことがありました。

上陸自体は2012年の8月19日のことで、朝4時ごろ暗いうちに1人にだけ8時か9時には戻りますと伝えて、沖合400メートルのところから海に入りました。周囲には巡視船もいましたし、ほかの漁船も漂泊していましたので、見つかると大騒ぎになると思って、最初の50メートルは潜水し、残りは水面を泳いで行きました。

成毛:潜ったと簡単におっしゃいますけど、アマチュアダイバーでは無理でしょう?

伊藤:そう言われればそうですね。真っ暗な外洋で潮の流れが非常に強いところを1人で素潜りする人は、同業者以外ではあんまり聞かないですね……。

成毛:同業者……サメもいる海域ですよね?

伊藤:いますが、襲ってくるのはまれです。むしろ、いちばん大変だったのは、広げると畳10畳分はある国旗を運ぶことでした。それを予備も含めて2枚と、旗を吊るすロープを持って行ったのでかさ張りました。

成毛:巨大な日の丸を掲げに行ったわけですね。

伊藤:そうです。まず魚釣島の西側から上陸して灯台へ行き、そこから国旗を掲げに登りました。8時ごろにはなんとか掲げて、というよりも、大きな岩の部分に垂らすことができました。下山する頃には漁船のほかの人たちも岸辺に上陸してきたので、その人たちに向かって、海保の巡視船が沖合でサイレンを鳴らして、「戻りなさい」と拡声器で声をかけていました。

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