元特殊部隊員が「尖閣諸島」に隠密上陸した事情 異色の書き手が語るドキュメント作品の舞台裏
伊藤:上陸してきたみなさんが船に戻るのを手伝ってから、自分が乗ってきた漁船に戻ると海保の方が3人待っていて、任意で取り調べを受けました。いつ旗を? そもそもどうやって登ったわけ? 夜のうちに? 山頂までの道はあるのか?と質問攻めでした。
そうそう簡単なことではありませんが、それ用に生まれ、そのための訓練をしてきているわけで、非常に急いで登ったので肉体的にはきつかったのですが、それ以外は別に普通のことですから、なんなくできました。それより、根本的に間抜けなことに、海保の現場の人たちを励ましたくてやったことなのに、結局はご迷惑をかけてしまいました。
成毛:えっ、海保隊員を励ますとは?
伊藤:その前に中国漁船に海保の巡視船がぶつけられて、その映像が流出するという事件がありました。直前には、香港の活動家が上陸して逮捕されたものの、何の処罰もないまま帰国させられて終わりました。現場の人たちからしたら、きちんと仕事をしても報われないし、ぶつけられても文句も言えないという、つらい状況だろうと思えました。似たような仕事をしてきた立場なので、応援したいと思ったんです。
隠密上陸だから不法侵入は問われなかった
成毛:海保の方から、その後に何か言われたことはありますか?
伊藤:取り調べをされた海保の3人のうち1人が、山頂付近にある国旗を指差して、親指を立てながらにこっとしてくれたので、あれだけはうれしかったです。
成毛:海の男のロマンですねえ。いやあうらやましい。調べてみると、石原慎太郎都知事(当時)がいろいろ発言して、野田政権が国有化したのが9月11日だから、登山時はギリギリ私有地だったんですね。
伊藤:そういうことになります。その後に、自主的に八重山警察署に出頭して、事情を丁寧に、身振り手振りで上陸の仕方から、闇の中でどうやって登っていったかを説明しました。正確に記憶しているわけではないのですが、そのとき言われたのは、「不法侵入ではない」ということ。建物などがないから、侵入の形跡を問えないと言っていたと思うんです。
ただし、これは潜水して隠密だからできたことで、「戻りなさい」「登るのはやめなさい」と声をかけられても無視して、退去しなかった場合は、「不退去」の罪になるようですが、何しろ隠密上陸なので私は問われませんでした。とはいえ、二度とやるつもりはありませんし、その後に上陸した人の中には書類送検された人もいるので、お勧めはまったくできません。
成毛:勧められても技術的に登れないから大丈夫でしょう(笑)。