「ぼったくりタクシー天国」に今起きている変化 流転タクシー第5回、アプリとコロナの"熱波"

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「お前がシングル(独身)なら、俺の友達のキレイなフィリピーナを紹介するよ」と言って笑い、トランクから筆者の荷物を降ろして当たり前のようにチップを要求してくる。移動する際はいつでも呼んでくれ、と言うと連絡先が書かれた名刺を渡された。

ショッピングモール前に並ぶタクシー。この島では住民や観光客の"足"として、なくてはならない存在だ(写真:筆者撮影)

彼の行動原理はどこまでいってもマネーというわけだ。 潔いまでの貪欲さに対しては感心が勝り、不思議と腹立たしさは感じなかった。

前置きが長くなったが、こういった暴利なタクシーに遭遇することは現在のセブ島ではほとんどない。ひと昔前は外国人観光客に対して大なり小なり、金額をふっかけてきたり、改造メーターをいじるなど、細かいトラブルが発生していた。

ところが、近年ではそういった声は激減している。滞在中に優に20回を超える頻度でタクシーを利用したが、上記のような経験をしたのは冒頭の一度だけだ。

「規制も厳しくなり、会社や国や州からの注意喚起もある」と、ドライバーとして10年以上働く別の男性は言う。しかし何より、抜本的にぼったくりが減った理由としてはタクシーのIT化が挙げられる。

瞬く間に「Grab」が席巻

セブ島に住む外国人に限らず、現地人も必ずといっていいほど利用しているのが、シンガポール発の配車アプリである「Grab」(グラブ)だ。フィリピンを含む東南アジア諸国ではこのGrabの勢いはすさまじいものがある。2014年に同国に参入した配車アプリ大手の「Uber」(ウーバー)が、Grabとの競争に破れて2018年に撤退したほどだ。

地下鉄がないセブ島では、移動手段がジプニー(乗り合いバス)や長距離バス、バイクタクシー、タクシーなどに限定される。観光客や駐在者にとって利用しやすいのは必然的にタクシーとなるわけだ。

ただ台数は多いにもかかわらず、セブ島では外国人が“流し”でタクシーを止めるのはなかなか骨が折れる。とくに中心部でラッシュ時に乗車する場合、道路端に寄せて停めるスペースも時間的な余裕もなく、ドライバーからの乗車拒否も多い。20年以上前の日本の「タクシーバブル」と呼ばれた時代に類似している、と表現しても大袈裟ではないかもしれない。

日本や韓国、中国からセブ島を訪れる人々が年々増加していることが、タクシー業界に恩恵をもたらした要因でもある。その反面、観光需要の増加という状況を利用して、不正を働くドライバーも後を立たなかった。ぼったくりの打開策としてもGrabを利用することで、安全かつ安価にタクシー利用が可能となっている。

このアプリは目的地と現在地を登録し、あとはドライバーが迎えに来るのを待つのみ。極めてシンプルだ。料金も事前に決まり、オンライン上で決済され、チャット上でも細かいやり取りができるので、トラブルになりにくい。現地在住10年の日本人男性が言う。

「私自身も2013年ごろまではタクシー利用の際に頻発したトラブルが、Grabが浸透してからは起きなくなりましたね。この島に住む外国人だけではなく、現地のフィリピン人も今ではタクシー利用の際は配車アプリを使うほどの浸透度です」

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