「ぼったくりタクシー天国」に今起きている変化 流転タクシー第5回、アプリとコロナの"熱波"

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「セブ島ではエアコンがない、ボロボロのタクシーがあるなど、車ごとの設備に大きな差があり、ドライバーの意識にも同様のことがいえた。現地でもタクシーへの不満が高まっていた中で、配車アプリにより業界自体が少しずつ健全化されつつある。肌感覚では、東南アジアでもセブのシェアは上位だと思います」

業界大手の日本交通によると、日本における月間タクシー輸送回数約1億回のうち、国内の全配車アプリを合計したシェアはわずか2%程度にすぎないという。現在は日本交通とDeNAのサービス統合により生まれた「MOV」(Mobility Technologiesが運営)がシェアを増やしているが、世界的にみれば配車アプリ市場では日本は後進国に位置づけされる。

Grabを利用して乗車した際、ドライバーはこんなことを話していた。

「配車アプリのいいところは、あらかじめ移動場所や時間が読めることだ。セブ島では長距離移動での利用者が圧倒的に少なく、長距離での移動よりもどれだけ多くの回数乗せられるかが重要なんだ。

もっともGrabが浸透してからは、自家用車で業界に参入してくる人間も多くなった。セブ島は働かない男が多いけど、稼ぎ時とみるや、必死に働くようになったドライバーが増えたかもね。

日本もそうだけど、とくに韓国からの観光客は配車アプリ利用者の占める割合が年々増えている。乗車割合のうち、半分近くをアプリが占めるといっても大袈裟じゃないかもね。ドライバーにとっても乗客にとっても、お互いに利点があると思う」

収入はコロナ前の10分の1に激減

近い将来、日本の配車アプリ市場が拡大する可能性は高い。だが、ライドシェアが解禁されていない日本で、セブ島のように業界のIT化が進み、他業種からも参入者が劇的に増えることは現段階では想像しにくい。

それでもセブ島のタクシー事情は、1つの参考例としては興味深いサンプルになる気がした。利便性や明瞭性に加えて、何より安全であること。ITとタクシーの融合により業界が改善され、今では現地の生活に根付くまでになった。交通機関のインフラ整備が進んだことは、セブ島の観光地としての価値を高める一因となっているともいえるだろう。

【追記】

セブ島では3月中旬から外出や島外への移動などが著しく制限され、2カ月以上に及ぶロックダウンが実施されるなど、生活は激変している。

セブ島がかつての活気を取り戻すのはいつになるのか(写真:筆者撮影)

7月末から一部の観光施設が復旧するなど活気を取り戻しつつあるが、外国人観光客が町から消えたことでドライバーたちの働き方も変わった。現地取材の際にSNSでつながったドライバーは、こう嘆息した。

「観光資源による収入が大きいセブ島が受けたダメージは深刻。タクシーも6月から動き始めたが、2カ月近く収入はゼロだった。友人から聞いた話では日本はマスクが配られたみたいが、フィリピンではコメが配布されたよ(笑)。観光客が戻ってくるのはまだ先だろうし、今年中は同じような状況だろう。ただ悲観しても仕方ないから、気長に待つよ」

冒頭のエリックによれば、新型コロナウイルスの影響で収入は10分の1まで落ち込んでいるという。

栗田 シメイ ノンフィクションライター

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くりた しめい / Shimei Kurita

1987年生まれ。広告代理店勤務などを経てフリーランスに。スポーツや経済、事件、海外情勢などを幅広く取材する。『Number』『Sportiva』といった総合スポーツ誌、野球、サッカーなど専門誌のほか、各週刊誌、ビジネス誌を中心に寄稿。著書に『コロナ禍の生き抜く タクシー業界サバイバル』。『甲子園を目指せ! 進学校野球部の飽くなき挑戦』など、構成本も多数。南米・欧州・アジア・中東など世界30カ国以上で取材を重ねている。連絡はkurioka0829@gmail.comまで。

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