7月から新型コロナウイルスの感染者は急増している。日本の場合、重症者や死亡者は感染者に比べると著しく増加はしていないものの、医療現場は逼迫の度合いを強めている。医療関係者の間では「緊急事態宣言を再度発出すべきだ」という危機感が強まっているという。
緊急事態宣言が必要だという意見の背後には、医療崩壊の切迫がある。われわれは医療崩壊を回避するために、緊急事態宣言よりも、従来の平時の政策運営の常識にとらわれない医療機関のインセンティブを考慮した財政支援によって、ECMO(体外式膜型人工肺)や人工呼吸器が必要となるコロナ重症者用や、重症には至らなくとも酸素など呼吸器管理が必要な中等症者用の病床の拡充を急ぐべきだと訴えたい。
医療崩壊の目安は重症者病床占有率50%
8月7日の新型コロナウイルス感染症対策分科会では、医療崩壊が接近する状態(ステージ4)の目安として、重症者病床占有率50%という数値を挙げた。病床占有率が50%を超えたら機械的に緊急事態宣言になるわけではないが、事態が切迫することは間違いない。当然、国民も緊急事態が近づいたと身構える。家計は消費を減らし、企業は投資を減らすことになるだろう。
今年4~5月の自粛と休業によって年間で日本の経済成長率はおおよそ5%程度低下したと考えられるが、この低下が4~5月の経済活動に起因していると想定すると、金額にして20兆~30兆円の経済損失が発生した計算になる。したがって、これから病床が逼迫して、緊急事態宣言の再発出という事態になれば、4~5月のように経済活動が萎縮し、10兆円規模の経済損失が発生することになる。
日本の場合、コロナ感染症で重症化しても適切な治療を受けて回復するケースも増えていると推測される。しかし、コロナ患者受け入れで確保された病床やその施設にいる専門医が不足した場合、本来助かるはずだったコロナ感染者の命が失われるという事態も起こりうる。「医療崩壊」である。緊急事態宣言は、そうした状態になるのを防ぐために、経済的損失という代償を払ってでも人々の移動制限を要請しコロナ感染者数そのものを抑えるというものである。