「コロナ重症者病床拡充」1兆円投じても急務な訳 医療崩壊を防ぎ緊急事態宣言も避けるために

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① 一定の要件を満たす病院を対象に、コロナの重症者用病床の提供を公募する(コロナ用に提供する病床数の最低ラインも、総病床数に占める割合で提示)。そして、公募に応じてコロナ重症者受入の承諾をした時点で、病院に対して一括の給付金を支給する(例えば、病床数100床台の病院は5000万円、200床台の病院は1億円、300床台の病院は1億5000万円、400床台は2億円、500床以上の病院は3億円とする)。

② 一括給付金の支払いは事前給付とする。つまり、実際の患者受け入れが始まるよりも前に支払う(万一、その後、重症者受け入れを停止した場合には、給付金の返還を求める)。

③ さらに、コロナ重症患者の受け入れ体制を整備することに対し、毎月、重症者病床1ベッドあたり1日30万円を支払う(仮に整備を約束した重症者病床数の範囲内での重症者の受け入れを実際には拒んだ場合は事後的に補助金の返還を求める)。

④ さらに、ECMOの使用につき1日50万円など実績に応じた適正な加算を行う。

以上のような政策案は、平時には想像もできない破格の補助金である。しかし、以下に示すように、全体のコストはGo To キャンペーンの予算額1兆7000億円の半分にも満たないのである。

コスト計算

例えば病床数400床台の病院が、コロナ重症者用病床を20床準備したとしよう。すると、2カ月で、一括給付2億円、ベッドの準備に応じて3億6000万円、合計で5億6000万円となる。

4~5月では、この規模の病院は2億円の収入減だったので、今後、同じ規模で実収入が減るとして、補助金込みの収入は3億6000万円程度の増加になる(前年同期比)。まさに、破格の補助金である。なお、さらに同じ状態が2カ月続いたときは、一括給付は1回限りだから、実収入が2億円減るとすれば補助金込みの収入は1億6000万円の増加(前年同期比)となる。

単なる仮想的な頭の体操だが、このような病院が全国に300病院あったとしたら、6000人の重症者受け入れが可能になる。2カ月で感染拡大が収束するとしたら、これらの病院への支出は、1700億円である。危機が1年続いたとしたら(一括給付は1回限りだから)、1年間で7100億円の経費となるが、これでもGo To キャンペーンの1兆7000億円の半分にも満たない。

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もし、7100億円をかければ6000人分の重症者病床が用意できる、となれば、今後、ある程度のレベルまで感染拡大が続いたとしても、緊急事態宣言を発出する必要はなくなってしまうだろう。十分な病床が準備されれば、国民は「いざ自分がコロナに感染しても、十分な治療を受けられる」と安心する。安心感が広がれば、観光をはじめとした経済活動も活発になると期待できる。その結果、緊急事態宣言を再発出する場合にくらべ、数十兆円もの経済損失が回避できる。

1兆円弱の財政コストで数十兆円の経済損失を回避できるなら、破格な常識を超えた財政支援であっても、国民経済的には十二分に合理的な政策となる。また、重症者病床確保は、医療を充実するだけではなく、経済活動の活性化という正の外部性をもつので、重症病床確保策に税金を使うことは経済学的にも合理的である。

今すぐにそれを実行しない理由は何もないはずである。

大竹 文雄 大阪大学感染症総合教育研究拠点特任教授

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おおたけ ふみお / Fumio Otake

1961年京都府生まれ。1983年京都大学経済学部卒業、1985年大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。同年大阪大学経済学部助手、同社会経済研究所教授などを経て、2018年より大阪大学大学院経済学研究科教授。博士(経済学)。専門は労働経済学、行動経済学。2005年日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞、2006年エコノミスト賞(『日本の不平等』日本経済新聞社)、日本経済学会・石川賞、2008年日本学士院賞受賞。著書に『経済学的思考のセンス』『競争と公平感』『競争社会の歩き方』(いずれも中公新書)など。

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小林 慶一郎 慶応義塾大学経済学部教授

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こばやし けいいちろう / Keiichiro Kobayashi

東京大学大学院工学修士、シカゴ大学経済学博士。経済産業省、経済産業研究所、一橋大学経済研究所を経て、2013年から慶應義塾大学経済学部教授。経済産業研究所ファカルティーフェロー、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。

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