これ以外にも医療崩壊を防ぐ方法がある。コロナ重症患者治療に対応できる集中治療専門医や呼吸器内科専門医が所属する病院の病床を増やすのである。コロナ重症患者対応病院には、ECMOやPMX(血液吸着療法)の整備や十分な人工呼吸器の台数も必要だろう。コロナ感染者用の病床は固定的なものではない。他の疾患のための病床や医師の専門性の中で相対的に決められるものである。
コロナ重症患者治療の病床機能としてICU(集中治療室)が適切であるが、たとえばICUでコロナ患者を診る職員の動線を非コロナ患者から分けることができなければ、病院にとって通常の術後患者や救急患者を受け入れが難しくなる。そのためコロナ重症患者の病床確保として、ICUに加えHCU(高度治療室)、救命救急病床、ひいては一般病床も含めて検討することが望ましい(院内感染回避策が十分にできることが前提)。
重症者用の病床を迅速に増やすことで、重症者病床占有率を確実に低下させ、医療崩壊を回避することができる。緊急事態宣言の効果が出てくるまでには一定の時間がかかり、効果の不確実性もある。
しかし、重症者用病床の増加は、その成果が確実に見込まれる。緊急事態宣言を発出しなくても病床の増加で重症者の命を守ることができ、同時に感染者の隔離を的確に行うことで感染拡大を収束できる可能性も高まる。そうなれば10兆円規模の経済損失を回避することができる。また、最終的に、緊急事態宣言の発出が不可避になったとしても、重症者病床を増やしておけば、手当てが遅れて死亡する患者の数をその分だけ減らすことができる。
重症者病床の確保は最重要課題
したがって、全国で感染拡大が続いている現在、新型コロナの重症者用病床を確保することは、感染症対策としても、景気対策としても、最重要課題である。集中治療専門医が不在であったりICU病床(HCUや救命救急病床を含む)や感染症病床の整備がなかったりする病院では重症者患者の受け入れは難しいが、全国の病院の中には、専門医や病床が確保されていてもコロナ用の重症者病床を提供することに消極的・否定的な病院があると言われる。
厚労省の支援策として、コロナ用にICUを提供すれば、1日30万円(1カ月で約900万円)という手厚い補助金が支給されることになっている。通常の重症者用病床を提供すると1日5万円の補助金である。こうした補助金制度があっても、コロナ用の病床提供に消極的な病院が多いのは、端的に「手厚い補助金」でも病院全体の減収から見ると金額が足りないことも大きい。