沢木耕太郎「旅も人生も深めるなら1人がいい」 「どのような局面でも面白がることはできる」

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(撮影:今井 康一)

「そのためには、やっぱり何かを我慢するってことも当然ある。経済的にそんなに豊かになれないことを引き受けるとか、例えばもしかしたら、予定がなくなる恐怖なんかに耐えるってこと。僕は予定がないことを恐怖とは思わないけど、予定がないことを恐怖と感じる人は多いと思うのね。でも、それに耐える。そういうことを一つひとつ決めていけば、出版社から『書けたら出してもらいたい』と言われたり、自分が書いたものを『載せてもらえますか?』『出版してもらえますか?』と言える関係性を作っていくことは可能だと思うけどね。その代わり、その先の自由を得るためにはすごい努力をしないと。なんてね(笑)」

身軽に生きていくために、誰よりも努力して優れた原稿を書き、どの出版社にも組織にも依存せずに済む強い立場を得る。依存せずインディペンデントであるために、自由であるために、沢木がどういうルールを自身に課して歩んできたのかが凝縮して語られたこの言葉に痺れた。生涯1つの会社や組織に依存して生きていくことが考えにくくなった、自立して人生を歩んでいくことを求められるこの時代の人々にも、響くメッセージかもしれない。

「自信は最初からあるわけじゃない。少しずつ身についてくるもの。それは結局、一種の経験です。旅に例えるなら、旅先でいろんな人たちの親切を受ける。それを無防備に受け入れていいのかどうなのか?

そのとき『ここまでなら挽回可能だから、この親切に身を委ねる。でもこれ以上行くと、自分の今の力では引き返せないから、それ以上は行かない』なんてことを、1回1回ちっちゃいことから経験していくんだと思うんですね。僕の場合、16歳で初めて東北へ行った1人旅から少しずついろんなものを学んだと思う」

そうやって自分の力量がわかってきて、どこまで応じていいのかを判断できるようになった。「やっぱりある種の経験が必要だったと思うんです。旅と集団のスポーツは、いろいろな状況の中で自分がどういうふうに身を処するかをわりと短期間で習得させてくれて、自分の力の背の高さのようなものも測れる大事な機会だと思う。だからできれば、その2つは若いときからやっていったほうがいいよね」。

身軽でいるために、生活の規模を大きくしない

世界を自由に歩く達人は、「自由になるためには、やっぱりあらゆることをコンパクトにすることだよ」と話した。

以前、沢木が東京メトロの満員電車に乗ってつり革にぶら下がっていたら、目の前に座って本を読んでいた男子学生がふと沢木を見上げ、自分の読んでいた本と何度も見比べて「沢木さんですか? 今『深夜特急』を読んでいたんです!」と立ち上がったことがあったそうだ。

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