沢木耕太郎「旅も人生も深めるなら1人がいい」 「どのような局面でも面白がることはできる」

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(撮影:今井 康一)

旅も人生も一緒、結局は1人で歩くものだ。「1人で生きていけることと、1人で旅ができることは、わりと近いこと。もちろん何人かで一緒に人生を過ごせればいいと思うんだけど、どこかで1人で生きられる力っていうのを持っていたほうがいいじゃない? 経済的にも、家事能力も含めて、男であってもね」。

「僕がささやかに、わりと自由でいられるのは、家事能力があるからです」。70代の沢木はこともなげに言った。「掃除、洗濯、料理、何でも自分でできる。僕は結婚してるから多くのものは妻がやってくれるけれど、自宅から離れた仕事場の維持管理や家事、それに毎日の昼ご飯は自分で作って食べるから、仮に何らかの形で1人で生きなきゃならなくても、全然平気、問題はないんです。

その力はやっぱり人間として自由になっていく、1つの重要な要素だと思っている。経済力と家事能力、1人で生きていける力量を持った2人がゆるやかにパートナーシップを組んで家庭を作っていくっていうの、まあ、理想的だと思うわけです。やっぱり1人で旅するように1人で生きる力量があれば、すごく生きていくのが楽になるよね」。

どれだけ手帳を空白にしていられるか

沢木の依存しない自由な生き方は、仕事の仕方にも表れている。

「僕はこんなに努力している書き手はほかにいないんじゃないかって、日々思っているよ、まったく(笑)」。沢木の口から、優れた書き手としての信念であり誇りがキラリとこぼれた瞬間だった。「今日、この取材が終わったら、向こう今年中の約束はあと2つしかない」。

取材チームの驚く顔に、沢木は苦笑した。「手帳にはそれしか書いてない。もちろん心持ちとしては、あの雑誌に何月頃に原稿書こうかな、ぐらいのことは考えてるよ。だけどそれはタイトな約束ではないし、仮にタイトな約束だって、どこに行って書いたっていいわけじゃない? だから僕にはめちゃめちゃ隙間がある、それを自由と呼ぶなら無限に自由がある。そういう自由な予定表を持つ人生を送りたいと思ってやってきたんです。

仕事に関しても『自分のライフワークはこういうので、こういうのを書かなきゃならないんだ』って思ったこともないし、徐々に締め切りを背負わない仕事にシフトしてきた。目の前に現れた仕事をやるかどうかをジャッジして、やるんだったら手を抜かないでやっていく、たったそれだけのことだよ」。

だが「それだけのこと」は、努力と、それが培ってくれる自信とがなければ決して実現できないことだ。

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