文字の読めない彼が「好き」から辿り着いた天職 21歳ドローンパイロットは弱みを強みに変えた
文字の読み書きができなくても、パソコンを使うことでわかる。合成音声で読み上げてくれる音声ソフトを使用し、キーボードで文字を打つ。このほうが断然早いし、楽だ――。髙梨はそう思うようになった。
転機は中学3年生のときに訪れる。髙梨は初めて識字障害と診断された。
髙梨が他人に「僕は読み書きすることが難しい」と説明しても、目に見えない障害は、人から理解されにくく、受け入れられにくかった。しかし、それまでは「身体障害」か「精神障害」しかなかったのが、「発達障害」という新たな3つ目の障害があるという認知が広がり、髙梨がその状況にあることを世の中が理解してくれるようになった。
「『手が不自由で書けないのではない』という説明はしやすくなりました。読み書きすることを人並みに頑張れなかったのは、頑張れなかったわけではなく、『自分にはできないことだった』ということだとわかりました。読み書きができないことに理由がちゃんとついたので、診断を受けて本当によかったです。薄々感じていたので、モヤモヤが晴れたという感じですね」
加えて、2016年4月に、「障害者差別禁止法」という法律ができ、合理的配慮が世の中に認められるようになった。髙梨の場合は、例えば駅の窓口で、今までは「代筆はできません」と断られていたのが、「代筆で」と言えば多少嫌な顔をされるぐらいで済むようになった。
読み書きができないからこそ五感が発達
今でこそドローンパイロットという自分に合った仕事を手に入れ、それを突き詰めて生き生きと充実した日々を送れている髙梨。だが、それは「識字障害というハンデを負っていたからこそ」という裏返しの事実もある。
「僕は読み書きができないので、ほかに頼れるものとして五感の感覚が人より発達しているのだと思います」
髙梨は常人からすると考えられないほど、聴覚が鋭敏だ。例えばドローンのプロペラの音を聞いただけでプロペラが少し欠けていることや、肌でプロペラの風を感じることで故障に気づくことがある。髙梨に言わせると「頭の中で地図を描くことができ、あまり道に迷ったりしない」。匂いにも敏感だ。
ドローンは普通の人でも割と誰でも簡単に飛ばせてしまうが、機体の具合を確認しながら微妙な調整をしたり、イレギュラーな状況に対応したりといったことができるのは、髙梨が培ってきたこれらの感覚によるところが大きい。
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