文字の読めない彼が「好き」から辿り着いた天職

21歳ドローンパイロットは弱みを強みに変えた

一般の人は「空」というと雲よりも高いところを想像するかもしれないが、髙梨にとってそれは興味のある高さではない。だから彼は人にドローンで飛ぶことを説明するとき「空」という言葉を使わないのだという(撮影:髙梨 智樹)

髙梨は言う。

「識字障害であっても早期に気がつき、環境を整えるなどの対処をすれば、生きづらさを解消することがきっとできます。誰でも楽しく輝いて生きることができるし、その権利を持っているのです」

髙梨がテレビで識字障害をカミングアウトしたことで、多くの反響があったと父の髙梨浩昭は息子の著書に手記を寄せている。

「『うちの子もそうです』という保護者の方や『子供の頃私も字が読めなくて大変だった』という話もいただきました。今では発達障害に対する支援もだいぶ厚くなってきたと聞きます。『障害』には程度の差があり、とてもデリケートな問題なので一概には言い切れないかもしれませんが、早い段階から周囲の支援を受けることができれば、障害を持っている方も、生きやすくなるのかもしれません。

テクノロジーも発達し、『障害』を持っている方の手助けになるツールもたくさん出てきました。そのようなツールを活用するのも1つの手段だと思っています。いわゆる『普通』の生き方が向いてなくても、ほかにいくらでも生きる方法はあるということに、私たちは智樹と生きる中で気づかされました」。

「こうやって生きることが正しい」というように、正解が1つに絞られるのではなく、ひとりひとりに、いろんな正解があるのだろう。

できないことはやらなくていい

障害を持つ人だけに限らず、誰もが苦手なことと得意なことがある。人は「自分が苦手なもの」にとらわれてしまいがちだが、これはもったいないことだと髙梨は語る。

『文字の読めないパイロット 識字障害の僕がドローンと出会って飛び立つまで』(イースト・プレス)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

「できないことに時間を使うよりも、得意なことに時間を割くほうが有意義だと思います。『苦手なものをできるようにしなければいけない』と思う人は、もしかしたら『みんなができるんだから、自分も同じようにならなければ』と周囲の人と自分を比べすぎなのかもしれません。気楽に考えて、『できないことはやらなくていい、できることを伸ばせばいい』と思えば、きっといい人生が送れるのではないでしょうか。死ぬほど生きるのがつらくても、そのエネルギーを仕事や好きなことに注ぐと、すごいエネルギーになると思います」

苦手なことに悩むよりも、好きなことを突き詰めていくほうが人生の可能性は広がっていく。髙梨智樹は身を持ってそれを体現している。

(文中敬称略)

「父親がラジコンヘリに出会うきっかけを与えてくれて自由にパソコンを触らせてもらえる環境があったから、今の自分がいます。母親は何かやりたいと思ったことにとても協力的で危険なものでない限り、どんなときも応援してくれていました。両親には感謝しています。多くの人に助けてもらいました。自分で言うのも変な話ですが、僕って人にすごく恵まれているんです」(撮影:小野寺 廣信)
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