だから、5カ月後に「ヒロのタスクをdescopeする」、つまりは僕をプロジェクトから外すと告げられたときのショックは大きかった。僕は25%分の「プチ失業」をしたのだ。それを埋め合わせるプロジェクトを探さなくてはいけないのだが、僕を外した側はいっさい面倒を見てくれない。所内での「就職活動」は自己責任だ。幸い、僕はその分の時間を使う(つまり給料を請求する)別のプロジェクトを持っていたし、またその後にいくつかのほかの仕事を得ることができたので、困ることはなかったのだが。
僕はこの経験から2つのことを学んだ。ひとつは新技術の売り込み方についての学び。もうひとつは自分の売り込み方についての学びだ。
技術を売り込むためには何が必要か?
JPLではアカデミックな基礎研究も多く行われているが、それ自体が目的ではない。あくまですべての仕事は将来の宇宙探査に資することが目的だ。これが研究機関たる大学とは決定的に異なる点である。平たく言えば、メーカーと大学の中間のような組織だろうか。
僕の失敗の原因のひとつは、この差を正しく認識していなかったことにある。大学における基礎研究では、斬新さ自体が価値となる。技術レベルを高めることが研究の意義でもある。加えて、やはり何年海外にいようと僕は根っこから日本人なので、技術力の高さを誇りとする日本の価値観が身にしみ付いていた面もあったのだろう。郷に入りては郷に従えとは、口で言うのは易くても、実践するのは難しい。
僕はそのプロジェクトの毎月のレビューにおいて、僕が開発した手法がいかに高度な技術を用いており、かつ数学的に厳密かを、自信満々に発表した。だが、レビューで審査する側のマネジャーたちが求めていたのは、そんなことではまったくなく、その技術がどれだけ火星探査に役立つか、この1点だったのだ。技術志向の僕に対して、彼らは徹頭徹尾、目的志向だった。どんなに使い古された技術であっても、それが最も安く、最も確実に火星での新たな発見に貢献できれば、それが最適解なのである。
とりわけ宇宙開発では新技術の導入に慎重だ。新しい技術は必然的に新たなリスクを伴う可能性があるからだ。自動車ならば故障したら修理屋に持っていけばよいが、宇宙機は一度打ち上げたら決して修理できない。ひとつの小さな故障で、何百億円もかけた探査計画がすべて水泡に帰す可能性がある。だから、新技術よりも、すでに信頼性が確立されている「枯れた技術」のほうが重宝されるわけである。
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