職場としてのNASA JPL
著書の第2章に書いたが、JPLはプロジェクト・ベースの職場だ。それぞれの職員は「部」「課」といったツリー状に構成された部署の下に配属されるが、日々の仕事は部署ごとには行わない。実際の仕事は「プロジェクト」において行われる。
それぞれのプロジェクトには決められた期間と予算があり、さまざまな部署から横断的に人が雇われている。一口にプロジェクトと言っても、10年間で何百億円という予算のつく宇宙探査機の開発プロジェクトから、4カ月で300万円程度の基礎研究のプロジェクトまで、大小さまざまである。
一人の職員はたいてい複数のプロジェクトに雇われている。職員の給料は、それぞれのプロジェクトに費やした時間配分に応じて、プロジェクトの予算から支払われる。たとえば僕がある週に3つのプロジェクトに50%、25%、 25%の割合で時間を使ったとしよう。すると僕のその週の給料は、この割合でそれぞれのプロジェクトの予算から支払われる。
JPLに雇われていても、自動的にプロジェクトへ配属されることはない。しかもプロジェクトの期間は有限で、成果が見込めなければ途中で切られることもある。また、プロジェクトから不要になった人を外すことも頻繁にある。基礎研究のプロジェクトでは特にそうだ。だからつねに所内での「就職活動」が必要となる。この仕組みならば原理的に窓際族は発生しない。どこのプロジェクトからも声がかからない所員は給料をフルにもらえず、辞めるしかなくなるからだ。
JPL内での「プチ失業」とは?
僕も一度、苦い経験をした。JPLに入所して以来、25%の時間を使って携わっていた、将来の火星探査に関する基礎研究のプロジェクトがあった。僕は入所早々だったこともあり、頑張って良い成果を出し認めてもらおうと、鼻息荒くこの仕事に取り組んだ。JPLでは新人研修は1日しかないから(アメリカでは日本のような組織的な新人研修は行われないのが一般的)、入所2日目からこのプロジェクトで働き始め、深夜や土日に働くこともいとわずプログラムを書き、自分では誇れる結果を多く出したつもりでいた。
5人程度のチームによるプロジェクトだったのだが、毎月行われるレビュー(審査会)でのプレゼンテーションでは、スライドの半分は僕の出した結果が占めたこともあった。僕は自分の仕事に自信があった。
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