共働きで「子育てと介護」をする48歳男性の悟り 愛犬の病気も死も理解できない「認知症の母」

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「しかし、私も子どもを育てていくうちに、母が親としてそうしなくてはならなかったということが、言葉で説明されるよりもリアルに理解できるようになりました」

歳を重ねるごとに父親に似ていく自分。自分に似たところのある長男を見ているうちに、「私と父のようには絶対にしない」と誓うと同時に、父親には、「発達障害だったのかもしれない」と思い、母親には、「散々苦労してきた母が、なぜこんな目に遭わなければならないのか?」と哀れに感じるようになった。

「私は母のことを『お母さん』と呼べなくなっていましたが、認知症になってからは、自然に呼べるようになりました。介護が始まったころは、認知症とわかっていてもついつい怒鳴ってばかりでしたが、今は、『何も心配ないからね』と優しく接することができるようになりました」

三井さんは、ブログで日記をつけている。空いた時間に詳細な現状を伝えることができるため、理解してくれる人が見つかり、救いになった。

「会社には、介護休業取得や、その後の職種変更を認めてもらい、とても感謝しています。だけど時間が経つと、一部の社員から『まだやってたんだ……』という空気が伝わります。一度上司に現状を話したのですが、『そんな生活もう破綻してる。何とかしなよ』と言われ、相談にもなりませんでした。

私にとっては現在進行形なのに、勝手に過去のことにされていたり、周囲の理解が得られないことが最もつらいですね……」

重要なのは声を上げられる場所を見つけること

ダブルケア当事者は、多忙のあまり孤立しがちだ。三井さんは、自分のブログがダブルケア当事者たちの悩み相談の場になればと思い、情報発信を続けている。

「子育ては大変ですが、心の支えになりました。子どもがいなかったら、何回母と心中しようと思ったかしれません。ダブルケアは、『介護だけ』『子育てだけ』の人にも完全には理解はされません。憤慨することも多いですが、声を上げなければ伝わらない。怒りがバネになることもあります。ダブルケアでいちばん重要なのは、『声を上げられる場所を見つけること』。孤立がいちばんの問題だと思います」

母親は今年、要介護2に上がった。そして6月に、ステージ4の乳がんが発覚した。

「母のがんで、ますます大変にはなりますが、ダブルケアの終わりも見えてきました。ダブルケアを卒業したら、まずは伊豆の下田に行って、趣味のスキンダイビングを思う存分やりたい。その後は整理収納アドバイザー1級の資格を活かして、妻と理想の部屋づくりに取り組みたいと思っています」

旦木 瑞穂 ライター・グラフィックデザイナー

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たんぎ みずほ / Mizuho Tangi

愛知県出身。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメ・イベント記事や、葬儀・お墓・介護など終活に関する記事の執筆のほか、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行う。主な執筆媒体は、産経新聞出版『終活読本ソナエ』、鎌倉新書『月刊「仏事」』、高齢者住宅新聞社『エルダリープレス』、インプレス「シニアガイド」など。

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