共働きで「子育てと介護」をする48歳男性の悟り 愛犬の病気も死も理解できない「認知症の母」

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そして10月14日。三井さんは、「最近おかしいのは、ストレスがたまっているせいだろう」と思い、母親をカラオケへ連れて行く。しかしその楽観的な予想は、無残にも打ち砕かれた。

「母は、同じ歌を初めて見つけたように喜び、同じ歌ばかり何度も何度も歌っていました。もう認知症を認めるしかなく、後悔と不安で、胸の中に冷たいものが流れ込んでくるようでした……」

三井さんはすぐにかかりつけ医に相談。大病院の精神科を紹介してもらい、5回ほど通院すると、12月26日に認知症の診断がおりた。

2017年1月4日。役所が開くのを待って、介護申請をする。1月の半ばに認定調査を受け、後日「要介護1」の通知を受け取った。

三井さんの母親は、夫の暴力から逃れるために、三井さんが10歳のころ、姉だけを連れて家を出ている。

結局夫に見つかって連れ戻されたが、そのたびにまた家を出た。

「父は、私を手掛かりに母を探すため、電話に盗聴器を仕掛けたり、探偵を雇ったりしていました。当時はDVなどという言葉もなく、社会的な理解やフォローもなく、離婚調停どころか、生きるためには逃げるしかない状況でした」

三井さんはずっと父親と2人で暮らしてきたが、20歳になったころに家を出た。

「きっかけはささいなことでした。疎遠だった姉が婚約者を連れて父のもとへあいさつにきました。

父は、急に結婚の話を聞かされて面白くなかったのでしょう。その夜は普段よりも荒れました。私は子どものころから父が怖くて、逆らったり、けんかしたことは一度もなかったのですが、そのときはなぜか我慢ができなくなり、父が寝てから家を出て、母が親戚名義で借りた団地に住んでいたので、そこへ行きました。

翌朝、私がいないことに気づいた父は、きっとショックだっただろうと思います。いまさらですが、後悔しています」

子どもたちが独立した後、母親はまた父親と連絡を取るようになったが、父親が女性関係で再び荒れ始めたため、ついに母親は父親を見限る。

父親は酒浸りになり、かつて4人で暮らした家で、たった1人で息を引き取った。死因は肝硬変。まだ60代前半だった。

三井家の日常

平日の三井さんは朝、子どもたちを起こして朝食を食べさせ、小学校や保育園へ送り出す。

仕事が終わると、まずは夕飯の支度。その合間に、保育園や学童へ子どもたちを迎えに行く。

帰宅すると子どもたちは、三井さんが台所に立っている間も「お父さん、お父さん」と競うように話しかけてくる。

やっと夕飯を食べ始めれば、食べ散らかす男児2人の口周りや足元をふき、まだオムツの末っ子が「うんちぃ~」と言えば、食卓の横でオムツを替える。

夕飯の後は風呂だ。上がったら保湿をし、湿疹には薬をつける。

寝る前に歯磨きをさせると、三井さんはようやく座ることができた。寝室で「お父さん、お父さん」と、くっついてくる子どもたちと少しだけ遊び、21時に寝かしつけ、一緒に寝てしまう。

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