共働きで「子育てと介護」をする48歳男性の悟り

愛犬の病気も死も理解できない「認知症の母」

2017年の秋頃になると、ようやく三井さんは一息つける思いがした。

しかし、そこにたどり着くまで、母親の病気のフォローがろくにできず、病状が急激に進む。

ヘルパーさんへの暴言、デイサービスの拒否、物忘れに拍車がかかり、ケアマネージャーもお手上げ。「一人暮らしの限界」と言われてしまう。

とはいえ、共働きの三井さん夫婦の場合、どちらかが介護離職をしない限り、同居介護は不可能。施設に入れることも考えたが、費用面で難しいばかりか、認知症で受け入れられるところはなかなか見つからない。

悩んだ末に三井さんは、包括支援センターや役所に相談し直し、ケアマネージャーやヘルパーなどを総入れ替えするしかなかった。

2018年7月、三井さんの母親が飼っていた犬の「ポン太」に腫瘍ができ、顎が溶ける病気になってしまった。しかし母親は病気が理解できず、ポン太の傷口をいじったり、無理やり散歩に連れ出そうとする。三井さんは何度も注意するが、母親は理解できないし、言われたことを忘れてしまう。
三井さんは2週間に1度、ポン太を動物病院に連れていき、薬を毎日つけてやった。

「ポン太は、毎回消毒のたびにとても痛そうにするのに、母はせっかくつけた軟膏を汚れだと思ってティッシュでゴシゴシふき取り、ティッシュのカスが患部にたまるので、私はいつも『やめろ!』と怒鳴っていました。

ポン太は歯が落ちて顎の骨が出てきても食欲があったので、餌と水を流し込んで与えました。できることなら安楽死させてあげたかったけれど、ポン太の存在は母の支えだったため、とにかく懸命に世話をしました」

2019年の9月、ポン太は死んでしまった。

「母はポン太の病気や死を説明してもまったく理解しませんでしたし、自身の病気のこともまったく聞く耳を持ちません。ああやってつらいことから身を守るために、人はボケるのかもしれませんね……」

なぜ自分が母親を介護しなくてはならないのか

三井さんの姉は、同じ神奈川県内に住んでいる。長年音信不通だったが、2017年に三井さんから連絡し、話し合いの場を設け、母親の通院など介護の手伝いをする約束をした。

月1回ほど手伝ってもらっていたが、ポン太が病気になり、世話が困難になったので預かってもらったところ、「母から何度も電話がかかってきて手におえない」と言って一方的に返され、それから一切音沙汰なしだ。

「姉は夫婦とも公務員。子どもは2人とも自立しています。こちらは小さい子どもを3人抱えて、母の世話に追われる毎日。所在も連絡先もわかりますが、今は冷静に話ができそうにないので、関わらないようにしています。正直私自身、子どものころに母が姉だけを連れて逃げたことに、禍根を残しているというのもあると思います。子どもの頃の姉弟の仲は悪くなかったのですが……」

母親がまだ元気なころ、三井さんは自分を置き去りにした母親を責めた。認知症になってからは、「なぜ私が母の介護しなくてはならないのか?」と疑問を持った。

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