コロナ危機に下村治が再評価されるべき理由 独自の成長理論を生んだ希代のエコノミスト
実際、日本経済は、高インフレを起こすことなく高度成長を実現した。積極的な設備投資により、需要の拡大に見合うだけの生産力の増強が行われたためである。
インフレを恐れるならば、投資を抑制するのではなく、むしろ積極的な投資によって、供給力を増強すべきである。この洞察を、下村は終戦直後のインフレ処理の経験から学んでいた。
MMTにも通じる議論
また、国債の発行を説く下村に対しては、国債の消化を懸念する観点からの批判があった。現在でも、「国債の発行は、いずれ民間貯蓄の不足を招いて金利を高騰させる」と論ずる経済学者が圧倒的に多い。
これに対して、下村は、こう反論している。
「なぜ国債消化がむずかしいようにみられるかというと、政府が支出するためには、その以前に国債を発行し、それが消化されなくてはならないことが当然の前提であるかのごとく思い込まれているからである」
「しかし、手順を逆にして政府はまず歳出を実行する。つまり、税金で引き上げたのではない資金をまず支出する、そのあとで国債を発行して消化するという手順を考えると、ことは簡単である。資金がさきに支出されているから、民間部門に資金が流入する。民間部門の資金がふえたところで国債を発行すれば、それは容易に消化されることになるはずである」
要するに下村は、「政府の赤字財政支出が、それと同額の民間部門の貯蓄を増やす。したがって、国債発行が民間部門の貯蓄不足を招いて金利を高騰させるなどということはありえない」と述べているのである。
実際、過去20年間、日本の政府債務は増加し続け、昨年にはGDP(国内総生産)比230%を超えるに至ったが、この間、長期金利は上がるどころか、世界最低水準で推移し、マイナス金利を記録することすらあった。
ちなみに、現代貨幣理論(MMT)も、下村のこの説明とよく似た議論を展開して、国債発行と金利上昇の関係を否定している。しかも、MMTの代表的論者であるステファニー・ケルトンは、その事例として日本を挙げている。
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