自由診療にすがり急逝した乳がん患者の末路 有効性なき免疫療法の何とも許されざる実態

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クリニックが入っていた「京橋エドグラン」(筆者撮影) 

ステージ4なら1600万円が必要になる計算だ。患者は親族から金を借りるなどして、まず1クールの免疫療法を始めた。だが1クール分が終了した直後、脳に転移していることがわかり、そこで治療は終了した。

あるとき、この医師はこんな本音を漏らした。

「(クリニックを訪れる)患者の大半は標準治療をやり尽くしてくる。そういう患者に、免疫療法をいくらやっても効果はないんです。抗がん剤をやり尽くした患者はね、免疫力が低いから効かないんです」

効果が期待できないのに高額な「免疫療法」を行う理由を問われると、「患者のほうでぜひやってくれというから、仕方なくやっています」。

効果が定かではなくても「希望」が必要

同じようなセリフは、別の医師からも聞いたことがある。進行がんの患者にとって、効果が定かではなくても「希望」が必要なのだと。

しかし、患者は本気で自由診療の「免疫療法」が効くと信じている。有効性が何も証明されていない「虚構」だと知ったら、誰も大金を払って気休めの治療など受けない。

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京橋のクリニックは、ずさんな経営が影響して、2019年に自己破産した。負債総額は約9億円にもなるという。

現在、新型コロナ問題が何とか収束しているのは、医師たちの高い職業意識と献身的な治療のおかげだと思う。そうした医師たちが従事しているのは、基本的に保険診療であることを念頭に置いていただきたい。

がん治療の現場を取材して痛感するのは、「最初の治療選択」が最も重要であることだ。今回ご紹介したように、その選択を間違えた結果、助かるはずの命を失う人も実際にいる。

こうした悲劇を避けるには、まず信頼できるソースから情報を得ること。インターネットなら、国立がん研究センターが運営している「がん情報サービス」にアクセスするのが確実である。そして、がん治療の中には、受けるべきではないものが存在するという、ネガティブな情報も知っておくことが必要だ。

岩澤 倫彦 ジャーナリスト

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いわさわ みちひこ / Michihiko Iwasawa

1966年、北海道・札幌生まれ。ジャーナリスト、ドキュメンタリー作家。報道番組ディレクターとして救急医療、脳死臓器移植などのテーマに携わり、「血液製剤のC型肝炎ウィルス混入」スクープで、新聞協会賞、米・ピーボディ賞。2016年、関西テレビ「ザ・ドキュメント 岐路に立つ胃がん検診」を監督。2020年4月、『やってはいけない、がん治療』(世界文化社)を刊行。近著に『がん「エセ医療」の罠』(文春新書)。

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