自由診療にすがり急逝した乳がん患者の末路 有効性なき免疫療法の何とも許されざる実態
手術を受けずに「がんが消える」という言葉を信じた女性は、クリニックに入院して治療を始めた。すると、院長は「合計600万円の費用が必要」と伝えたという。
外科手術を受けるべきだと、夫は何度も説得を試みたが、女性は聞く耳を持たない。そこで夫は、医療取材の経験がある私に相談を持ちかけてきた。私は拙著『やってはいけない がん治療 医者は絶対書けないがん医療の真実』を上梓するなど、医師には絶対書けないがん医療のタブーや、詐欺的ながん医療を目利きするヒントなどを追っている。
調査してみると、このクリニックは、入院の届出を行っていないことが判明した。さらに、ハイパーサーミア(温熱療法)について、関連学会は次のように見解を示していた。
温熱療法だけでがんが根治できるのはまれ
「ハイパーサーミアだけでがんが根治できるのはまれと考えられています。一般的には放射線治療や抗癌剤治療と組み合わせるのが一般的です」(一般社団法人日本ハイパーサーミア学会のHPより)
ハイパーサーミアは、あくまで「補助的な治療」と位置づけられていた。医学論文のデータベースで検索しても、ハイパーサーミア単独でも、ファスティングを組み合わせた治療法でも、「がんが消えた」という臨床研究は存在しなかった。
現在の医療は、「EBM=エビデンス・ベースド・メディシン」という、臨床試験によって有効性が確認されている治療が基本。これに対して、「独自理論のがん治療」は有効性の保証が何もない。
こうした現実を一般の患者は知らず、国家資格の医師が勧めるので、確かな根拠があると思い込んでしまう。
私は、女性の夫を通じて、クリニックの温熱療法では完治できないと伝えたが、翻意させることはできなかった。一度信じてしまうと、その呪縛から逃れるのは難しい。
やがて、女性は肝臓と肺に転移してしまい、体調が急激に悪化。自宅から救急搬送されて、1週間後に息を引き取った。
乳がんの判明から、わずか1年9カ月。救えるはずの命だったのに、私は何も力になることはできなかった。
国内には300以上のクリニックが、自由診療の「免疫療法」を行っている。本庶佑氏の研究(オプジーボ)も、「免疫療法」と呼ばれることが多いために混同されやすいが、両者は似て非なる治療法だ。
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