2020年年金改革は野党炎上商法の潮目になるか コロナ下での与野党協議が示した年金の未来

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2016年参院選前の年金改革時には、現在の受給者の給付額から、彼らの孫、ひ孫世代の年金へと仕送りを強化するための改革を、当時民進党国会対策委員長であった山井和則氏は「年金カット法案」と呼んで、彼らよりもはるかに年金を理解している記者たちから一斉に批判されるという失態を演じていた(『ちょっと気になる社会保障 V3』254~257ページ、「民進党の『年金カット法案批判』は見当違いだ」2016年10月27日参照)。

そしてこのときも、長妻氏は「今すぐ“抜本改革”に取り組む必要がある」と話しており、記者からは「完全にかつての民主党に先祖返りしつつある」と誌面で批判されていた。

2019年参院選前には、旧民主党議員たちは金融庁審議会の報告書に端を発した「老後2000万円不足」問題でキャンペーンを張ってはみたが、すでに公的年金保険とはどういうものかを理解していた一般の人たちからも一斉に、「2009年に抜本改革を掲げて政権を獲得した後、年金に対して何もできなかった体たらくへの批判がなされてしまった」(「金融庁の報告書が実はとんでもない軽挙なワケ」2019年6月30日参照)。

もはや揚げ足もとれず、支持基盤からの反発も

そして、彼らの老後2000万円キャンペーンのとき、相も変わらずワイドショーや週刊誌などが年金不安を煽る様子を観ながら、まだわからない人たちが世の中にいることを実感した厚生労働省の年金局は、8月に「2019年財政検証」を発表したのであるが、その報告書は世論の噴出を抑えるべく周到な準備がなされたものであった。

野党は、どうにかして財政検証の揚げ足を取ってメディアでの炎上を狙おうとするも、その願いもむなしく、かなうことはなかった。今回の年金改革の山場は、あの2019年夏の財政検証であったということもできよう。

そして重要な動きは、この数年間、野党の支持基盤である連合やその退職者団体が公的年金保険の学習を深め、政争の具として利用しようとする政治家の言うとおりには動かなくなってきていたことである。時代に取り残される野党政治家に呆れ、諫め、彼らに圧力をかけるという状況にもなっていた。

今回の年金改革が国会審議に入る前の昨年末には、立憲民主党に移っていた山井和則氏は、所得源の種類によって不公平をもたらしているなどの問題を持つ「65歳以上の在職老齢年金制度」(高在老)の見直しを今のうちにしておこうと考えていた与党の考えを批判し、相変わらずの仰々しいパフォーマンスを繰り広げていた。

それを受けた与党は面倒さゆえに、高在老改革からさっさと撤退してしまった。今回の年金改革法案に関して、実は、野党は国会で言うことはなくなっていたのである。

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