金融庁の報告書が実はとんでもない軽挙のワケ 年金制度改革の努力を台なしにしかねない
金融庁審議会の市場WG(ワーキンググループ)の報告書で世間は炎上しているようで――そのきっかけは、金融庁WG報告を次のように報道した朝日新聞の記事だったとのことである。
この記事がSNSに流され、老後資金2000万円問題として炎上していった。
金融商品を売る金融庁のアプローチ
先日の授業で、いま君が証券会社の社員だとして、お客さんに株を売りたいとする。お客さんに、老後の生活費として公的年金のほかにどのくらいの資金を準備したほうがよいかを示す数字として、君たちは、その平均値、中位値(分布の真ん中の数字)、最頻値(分布の中で最も頻度の多い数字)のどれを示す?と考えてもらった。
みんなは証券会社の社員なのだから、とにかく商品を売りたい。そういう前提の下では、だいたいみんなが平均値を顧客に示すと答えてくれる。というのも、横軸に老後のための必要資金をとり、縦軸に人数をとったグラフを描くと、右裾が長く伸びた分布になるために、左から、最頻値、中位値、平均値の順番に並ぶことになる。
平均値を顧客に示したほうが生活費の不足に危機感を抱き、株を買ってくれそうな人たちが多くなるからである。中位値や最頻値を示していては、恐怖をあおって商品を販売するマーケティング手法が成り立たない。
これと同じ手法が、今回の金融庁の報告書で使われていた。この報告書を読んだFP(ファイナンシャルプランナー)など多くのお金のプロたちは、「なにこれ?こんな形で老後資産の不足を求めるのは、金融商品を販売するときのアプローチと同じじゃない」と思ったようである。
どうして金融庁は、ああいう金融商品の販売員と同じアプローチをとったのか?
実は、あの報告書で最も大切なのは、「つみたてNISA については(中略)時限を撤廃し、恒久的な措置とすることが強く望まれる」という一文であった。というのも、あの報告書は、金融庁が財務省につみたてNISAの税制優遇を求めるためにまとめられた陳情書だったからである。そして、税を扱う当局に対して、自分たちの商品が税制優遇に値することを示すためにまとめられているのだから、金融庁の報告書が、証券会社が顧客に金融商品を売るときのアプローチと一緒になるのは、ある意味必然であった。
例年8月末にまとめられる税制改正要望の昨年の金融庁版(2018年8月)の1番には、「1. 家計の安定的な資産形成の実現・NISA制度の恒久化等」と書いてある。
今年に入ると4月に⾦融庁主催の投資家向けイベント「つみたてNISAフェスティバル2019」が開かれ、金融庁長官は「NISAの利便性を⾼め、恒久化する。⾃助で⻑⽣きする⽣活を⽀える制度にしたい。⼝座が増えるほど恒久化の道が開ける」と決意表明もしている。
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