大統領選候補者へサイバー攻撃「諸外国」の狙い イラン、中国、ロシアの狙いとはいったい何か

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2019年1月末に、コーツ国家情報長官が上院情報委員会に提出した世界の脅威評価報告書には、アメリカの敵や戦略的競争国が、民主主義を弱体化させ、アメリカの同盟関係やパートナーシップを損なうなどの目的のために、ほぼ必ずや世論操作のためのオンライン作戦を実行するだろうと書かれている。長官は、上院情報委員会の公聴会でも、外国が2020年のアメリカの選挙を国益の訴求の好機として捉えていると警告した。

報告書には、脅威の具体例が2つ挙げられている。1つ目は、「ディープフェイク」などの技術を悪用し、本物まがいの画像や音声、映像でアメリカや同盟国、パートナー国の世論を操作することだ。ディープフェイクとは、「ディープラーニング(深層学習)」と「フェイク(偽物)」を組み合わせた造語だ。人工知能などの技術を使って、既存の画像や映像、音声も組み合わせ、しゃべっている人物そのものや表情、発言内容も変えられる。

ディープフェイクは、すでにサイバー犯罪に悪用されている。2019年3月、犯罪集団がドイツにあるエネルギー関係の親会社の社長の声を複製し、イギリスの子会社の社長に電話をかけ、22万ポンド(約3060万円)をハンガリーの業者に1時間以内に送金するよう命じた。子会社の社長は電話から聞こえてくるドイツなまりの英語の声にすっかりだまされてしまい、大金を失った。

2つ目の脅威とは

2つ目の脅威は、有権者の登録システムや集計プロセスなどの選挙システムにサイバー攻撃を仕掛け、データを改ざんするほか、たとえ攻撃に成功しなくても、アメリカ国民が自国の選挙に対し疑念を抱くようにさせることだ。ロシアは2016年のアメリカ大統領選挙の際も、選挙インフラを狙ったサイバー攻撃を行ったとされるが、投票や票の集計の妨害や票数の改ざんは報告されていない。

アメリカのこの報告書に国名が挙げられているのは、中国、ロシア、イランである。中国にとって政治的に機微な問題の検閲や抑圧のためのサイバー攻撃についての言及はあるが、2008年に見つかったような大統領候補の選挙陣営へのサイバー攻撃については書かれていない。

ロシアは、ソーシャルメディアを使ってアメリカ国内の社会的・人種間の緊張を高め、政府当局への信頼を失墜させようとすることが予想されるという。2016年のロシアの投稿には英語の文法ミスが多く、見つけられやすかった。しかし、今は英語の記事やウェブサイトの引用、アメリカ人を雇っての投稿など巧妙化しており、発見が難しくなっている。

また、2019年10月にフェイスブックが削除したロシアのアカウントは、警察の暴力反対やLGBTQなど以前よりも多様な政治問題を扱うようになっていた。

イランは、ソーシャルメディアを使ってアメリカや同盟国にイランの国益に沿ったメッセージを送っており、そうした活動を今後も続けるものと見られるという。

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