大統領選候補者へサイバー攻撃「諸外国」の狙い イラン、中国、ロシアの狙いとはいったい何か
中国による2020年のアメリカ大統領選挙へのサイバー攻撃が報じられたのは、今回が初めてだ。ニューヨーク・タイムズ紙は、中国の政府系ハッカー集団がバイデン候補陣営を狙った理由として、同候補の中国に対する立場がどうなのか、米中の緊張が高まるなか、まだ中国の諜報機関が捉えきれていないためではないかと分析している。
アメリカのシンクタンク「戦略国際問題研究所」の幹部でサイバーセキュリティ問題の第一人者であるジム・ルイス博士は、選挙陣営へのサイバー攻撃で候補者の戦略や人脈などの貴重な情報を得られると言う。バイデン選挙陣営は対中政策文書を作成しているところであり、そうした情報は中国政府にとって非常に価値があるだろうと分析している。
一方、中国はトランプ政権に対する諜報活動はすでに長期間行っている。そのため、選挙陣営へサイバー攻撃したとしても、得られる情報は重複するだろうと判断した可能性もあるという。
6月4日時点では、イラン・中国両政府とも、メディアからの問い合わせにコメントしていない。両国は、過去のサイバー攻撃疑惑を繰り返し否定してきた。
中国は2008年の米大統領選候補者の陣営も攻撃?
中国は、2008年のアメリカ大統領選挙の際もスパイ目的でサイバー攻撃を仕掛けていたと見られる。シークレットサービスと連邦捜査局(FBI)は、2008年夏、民主党のバラク・オバマ候補(当時)と共和党のジョン・マケイン候補(当時)の選挙陣営に対し、外国から高度なサイバー攻撃を受けて侵入され、大量の情報が盗まれていると警告した。
サイバー攻撃は、数カ月間にわたって続けられた。攻撃者は、まず、今度開かれる打ち合わせの議題と称したファイルを添付したなりすましメールを選挙陣営の幹部に送りつけた。この添付ファイルは、実際には高度なコンピューターウイルスであり、選挙陣営のITネットワークに感染が拡大、情報を盗み取った。
オバマ候補(当時)の選挙陣営から盗まれた情報は「深刻な量」だったという。どちらの候補が政権を握っても、将来交渉する際に備えられるよう、両陣営から政策に関する情報を盗もうとしていたのではないかとの分析を、FBIとホワイトハウスはオバマ候補(当時)の選挙陣営に共有している。2018年11月上旬、ニューズウィーク誌が報じた。ただし、FBIとホワイトハウスは、報道に対しノーコメントだった。
アメリカ政府関係者が攻撃元を中国と考えているとの報道も、2008年11月当時あった。しかし、中国政府系か民間のハッカー集団かははっきりしなかった。
2013年6月になって、アメリカのNBCニュースが、2008年のサイバー攻撃は中国政府系ハッカー集団によるものだったと明らかにした。アメリカの情報機関筋によると、サイバー攻撃の目的は、政策に関する内部文書や上級顧問の個人メールなどを盗み出すことだったという。マケイン候補(当時)から台湾総統への個人的なメールも盗まれた。台湾では、2008年5月に馬英九政権が発足したばかりであった。
さらに、中国は、2018年の中間選挙でもアメリカ世論を中国に対して好意的にするための活動をしていた可能性がある。キルステン・ニールセン国土安全保障長官(当時)は、2018年10月の上院国土安全保障・政府問題委員会の公聴会で、11月の中間選挙に向けて中国がアメリカ世論を変えようと未曾有の努力をしていると証言した。しかし、中国政府は、アメリカの選挙への介入疑惑について繰り返し否定している。
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