父親の葬儀で知った「人は何のために働くのか」 20年前の辞表がつないだファミマ社長就任

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「驚いたのが、葬儀でした。人口2000人ほどの小さな村で、約2000人の方が来てくださったんです。しかも僕に、『お父さんには本当にいろんなことをご指導いただいた』『何から何までお世話になった』と初めて会う人たちが声をかけてくださって」

衝撃を受けた。父親は、自分の知らないところで多くの人たちを支援していたのだ。

「死んでから人に感謝されるのは、すごいことだと思いました。亡くなったときにこそ、人は評価されるのかもしれないな、と。たくさんの人に感謝してもらえるような生き方をしたい、と」

父親が利害関係のない周りの人たちに慕われたのは、きっと日頃から周りの人の幸せを優先するという「利他」の精神で生きた証しだろうと澤田は思った。

「いまも僕には、自分さえよければいいという『利己』の部分がたくさんあります。でも、実際には、人のことを幸せにしないと、自分は幸せになれないんですよ。人に感謝すること、人のために尽くすことが、いかに大切か。親父の死が、それを教えてくれました」

どうしても小売業をやりたかった

5月に刊行した拙著『職業、挑戦者』の一連の取材で、澤田は何度もこう強調した。

「改革の取り組みは、自分だけがやっているわけではない。自分だけがやったかのような書き方だけはしてほしくない」

改革が簡単でないことは、最初からわかっていた。

「コンビニはこれから大変だぞ、と思っていましたから。マーケットは飽和している。簡単じゃないですよ。でも、簡単じゃないから面白いと思うわけです」

ファミリーマートの筆頭株主は伊藤忠商事。先にも書いたように、澤田が20年も前に伊藤忠を辞めた理由は、「どうしても小売業をやりたかったから」だった。その澤田が20年後、伊藤忠にとっての最重要企業の1つ、ファミリーマートの社長を委ねられることになるというのは、まるで奇跡を描いたドラマのようである。

澤田にとっては、20年経ってやってきた天命ともいえる仕事だったが、受けるにあたって絶対に譲れない条件が1つだけあった。求めたのは、これだけだった。

「やるんだったら。自分の思うようにやりたい。そうでないと意味がない」

これだけのスケールの会社を経営トップとして執行するのは、おそらく最後だろうということもわかっている。しかも、コンビニ業界はいま、かつてないほどの逆風が吹いている。その逆風の最中に、コロナ禍にも襲われた。

だが、「加盟店さんのすごさ、すばらしさを改めて知った一方、おかげで課題もたくさんあぶり出された」と語る澤田は、いまも最前線で陣頭指揮を執り、奮闘する日々を送っている。

上阪 徹 ブックライター

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うえさか とおる / Toru Uesaka

ブックライター。1966年、兵庫県生まれ。早稲田大学商学部卒業。ワールド、リクルート・グループなどを経て、1994年、フリーランスとして独立。経営、金融、ベンチャー、就職などをテーマに、雑誌や書籍、Webメディアなどで幅広くインタビューや執筆を手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。他の著者の本を取材して書き上げるブックライター作品は100冊以上。2014年より「上阪徹のブックライター塾」を開講している。著書は、『1分で心が震えるプロの言葉100』(東洋経済新報社)、『子どもが面白がる学校を創る』(日経BP)、『成城石井 世界の果てまで、買い付けに。』(自由国民社)など多数。

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