コロナ危機で叫ばれる「食料危機説」の虚実 食料は不足せず、問題は途上国の政治経済だ

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主要な穀物(小麦、コメ、トウモロコシ、大豆)の供給構造を見ても、輸出規制を過度に恐れる必要はない。小麦ならロシア、アメリカ、カナダ、豪州、トウモロコシならブラジル、大豆ならブラジル、アメリカといった主要な輸出国は生産量の半分近くを輸出している。輸出なしでは農家の経営は成り立たない。

つまり、主要な穀物生産国・輸出国が本格的な輸出制限を実施する可能性は極めて低い。過去の日本の貿易交渉を考えても、アメリカをはじめとする農業国はつねに輸出を増やすために、日本の輸入障壁を撤廃するように求めてきた。昨今、米中対立が強まる中、アメリカは電子機器の輸出制限は行っても、農産物に関しては輸出制限どころか、輸入を増やすよう中国に圧力をかけている。

農産物で世界最大の輸出国であるアメリカは1970年代に大豆の禁輸を実施した過去がある。しかし、その結果、海外市場のシェアを失ったうえ、ライバルとなるブラジルの大躍進を招いた。農水省時代にアメリカ農務省関係者と交渉を繰り広げた山下研究主幹は、「過去の経験で懲りたアメリカは穀物の禁輸はもうやらない。アメリカだけではなく、農産物の輸出で稼いでいるカナダや豪州も同じだ。その禁輸リスクを声高に叫ぶのは実態を知らないからだ」と主張する。

小麦、トウモロコシ、大豆に比べるとコメは多少様相が異なる。もともとコメは、他3穀物と比べて生産量に対する貿易量が少ない。主要輸出国もインド、ベトナム、タイ、パキスタンと途上国が多いため、不作になった場合、自国民の消費を優先せざるをえない。コメは輸出制限のリスクがある。ただ自国生産・自国消費が基本であり、ほかの穀物の貿易が確保されていれば、本来は食料危機にはなりえない。

穀物相場はむしろ下落懸念

「穀物相場は弱含みの局面が続く」と住友商事グローバルリサーチ・鈴木直美シニアアナリストは断言する。最大の理由は、「原油価格の下落が穀物価格に波及してくる」からだ。

原油価格に最も影響される穀物はトウモロコシだ。というのも、トウモロコシの世界生産・輸出の約3割を担うアメリカでは、年間生産量の4割弱がエタノールに加工されているからだ。成育時にCO2を吸収することから環境対策であると同時に、需要創造によるトウモロコシ価格の押し上げが狙いだ。優遇政策で成り立っており、価格競争力は乏しい。

エタノールは自動車用燃料としてガソリンに添加されているため、 石油と代替関係にある。それが原油安でまったく採算が合わなくなり、生産が激減している。加えて、外食自粛や景気悪化による食肉消費の低下で、アメリカのトウモロコシ消費全体の4割を占める飼料需要も縮小傾向にある。

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