コロナ危機で叫ばれる「食料危機説」の虚実 食料は不足せず、問題は途上国の政治経済だ

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しかも、東アフリカを中心に穀物を食い荒らすサバクトビバッタが大量発生し、当地での食料危機を深刻化させている。先進国で食料が余り、価格が下がっても、貧しい人々はそれを購入することができない。

近年、経済成長の軌道に乗っていた新興国でも、コロナによって貧困層が増加。先進国でも失業が急増している。セーフティーネットからこぼれ落ちた人々が、食事に困る事態は起きうる。

コロナはさまざまな産業でサプライチェーンの機能不全を引き起こした。食料分野でもアメリカで感染者が出た食肉加工場が操業を停止したほか、インドではロックダウン(都市封鎖)でコメの輸出が減少、中国では加工食品の輸出が滞るなどの事態もあった。

ただ、サプライチェーンの機能不全はあくまでも一時的な問題のはずだ。むしろ、パニックによる買いだめが起こると事態が悪化する恐れがある。

パニックに陥る必要はない

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また、人の移動制限によって外国人への依存度が高い農産品の生産に影響が生じている。日本でも、農業に従事予定だった外国人技能実習生約2500人が入国できない状況だという(農水省経営局就農・女性課)。

ただ、日本の就農人口は約168万人に対し、外国人技能実習生は約3万2000人。それでも外国人の入国制限が長引けば、野菜や果物などの価格上昇を招く可能性は高い。しかし、一部の農産品の価格上昇を食料危機とは呼ばないはずだ。

問題なのは、食料危機という言葉の定義が曖昧なまま氾濫していることではないか。食料が不足するなら、増産が必要だ。金の問題ならば、必要なのは短期的には経済援助であり、中長期的には成長支援策だ。

日本に関していえば、近い将来、食料危機が起こる可能性はまずない。もちろん、農家の高齢化や、一部の農産物が外国人技能実習制度頼みとなっていることなど課題は多い。が、それとコロナ禍を不必要に絡めると解決策は間違ったものになりはしないか。

FAOの屈冬玉(チュー・ドンユィ)事務局長も「パニックに陥る必要はない。世界には、誰もが食べられるだけの食料が十分に供給されている」と訴えている。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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