飲食店を「倒産」させるコロナより深刻な問題 NY名店オーナーが20年来の店をたたむ理由
ジェームズ・ビアード財団は大急ぎで最大1万5000ドルの助成金を発表し、その申し込み期間は3月30日から4月3日とされていた。しかし、受付開始から数時間で申請が殺到し、受付を停止することになった。
飼い犬の具合がとても悪いとアシュリーが家からメールをしてきた。医療上の非常事態。これが冷や汗をかくシナリオだった。冷凍庫に残っているもので1カ月は暮らせたし、クレジットカードの限度額は1万3000ドルあったが、もし怪我でもして大きな治療が必要になったらどうすればいいのだろう?アシュリーも私も保険に入っていなかった。
子どもたちは彼らの父親の保険で守られていたが、私たちにはなんのセーフティーネットもなかった。シェフの間では、私たちの医療(そしてペットの医療)のバックアップ計画について、何十年も前からさまざまな冗談が言われてきた。私たちにはゴム製手袋も、剃刀みたいに鋭いナイフも、完璧なステンレス鋼の調理台もあるじゃないかと。しかし、この時の私には、ユーモアのセンスを呼び覚ますことはできなかった。
周りは動き始めている
そうこうしているうちに、私のメールボックスは、これまでに知り合った人たちが心配して送ってきたメールや、ニューヨークのレストランへの影響の大きさをようやく理解したアメリカ中の仲間たちからのメールであふれていた。
仲間のシェフやレストランのオーナーたちは急いでグループを作り、嘆願書を配布し、レストランで働く人たちや仕入先、そして農家のための連合を即座に結成していた。アンケートに答えたり、代表者が電話したり、書類に署名したりしていた。
中には、病院で働く人々に食事を提供するために、レストランを調理場に変えているシェフもいた。緊急支援を求めた救済法案が議会で審議されたが、不可解なことに、巨大なチェーンやフランチャイズへの支援はあっさりと決まったのにもかかわらず、小さな独立系レストランは除外された。
別の選択肢として、返済免除のある融資を受けることが可能になった。ただし、6月末までに解雇したスタッフを再雇用した場合にのみ免除が適用されるという。休業命令は解除されず、コロナウイルスによる死者の数も増え続けている中で、どうすればスタッフを再雇用できるというのだろう?本当に必要なのは差し迫った今後の家賃と、悩みの種であるオフィスに溜まった山のような請求書の支払いだったが、そのために融資を使うことはできなかった。
追い詰められたと感じ始めた矢先に、心配したプルーンの元マネージャー数人からグループメールが届き、クラウドファンディングでプルーンへの支援を求めることを熱心に勧められたが、そこには彼らが気づかない障害があった。私の自尊心だ。何日もメールに返信せず、決断できずに身動きが取れなくなるという新たな問題に悩まされた。