飲食店を「倒産」させるコロナより深刻な問題 NY名店オーナーが20年来の店をたたむ理由
私は人々が話を交わしあう場所としてレストランを始めた。お客の会話をはずませるため、質がよく手ごろな価格のワインを用意し、ラムの肩肉をシンプルに煮込んだ料理をきれいにテーブルに並べた。そして会話でにぎわう店にしようと、できる限りの経営してきた。このような場所が社会にふさわしくないと言うのなら、店は、私たちは、滅びるしかない。
店の扉がコロナウイルスのせいで無期限に閉ざされても私はまだ夢を見ていた。でも今回は、まだカギすらもっていないレストランに対して家の中で空想にふけることはない。
閉め切った店内で
私は自分の所有する、まだ10年契約が残っているレストランを閉めきって、その中で動かず静かに座っている。窓を紙で覆った空っぽの小綺麗な部屋の中で、木の椅子に座って毎日数時間過ごす。クーラーがブンブン鳴る音、コンプレッサーが定期的にオンオフする音、製氷機が断熱ビンに厚い氷のシートを定期的に落とす時地下から響いてくる轟音を、聞いて過ごす。
私の体には電気の通う細く青い糸がある。ときどきテーブルを並べ替える。どういうわけか、私はもう2人組に来て欲しいとは思えない。もう2人用テーブルはいらないのか?バレンタインデーはどうなる?
この長引く孤独のせいで、私が20年間食べ物とお客を詰め込んできた24インチの小さなテーブルを急に邪魔に感じたのも不思議なことではない。丸いテーブル、大きなテーブル、6人用、8人用のテーブルが欲しい。早めの夕食をとり、日が変わる前に家に戻る。正面のフレンチドアから太陽が差し込んでくる中、時間をかけてゆっくり食べる上品な日曜日の昼食。昔からの常連客がキッチンを覗きにやって来たら、私は鍋のふたを取ってその日に用意している料理を見せたい。
この暇な数週間に覚えたフェタチーズの小皿料理に、店が再開するのを待つ間の保存処理のために階下に吊るしておいた辛口ソーセージのスライスを添えて、テーブルに運びたい。冷えたグラスのふちまでこぼさず注がれるアルコールの比率が完璧なヴェスパーを、グレッグがシェイクして氷がガラガラ鳴るのをまた聞きたい。
過去にも閉鎖に追い込まれそうになったことはある。それでもプルーンは政府の援助なしで、911や大停電、不況やハリケーン・サンディ、数カ月にわたる市の水道管取り換え工事、またネット予約システムの波を生き抜いてきた。つまり、いまだにお客は店に電話をかけ、私たちは紙とペンで予約を受けている!私たちは便利な文化の支配や、キャビアやシームレス、グラブハブといったネット予約や宅配サービスの侵略を切り抜けてきた。
私はこのレストランを眠りの森の美女のように眠らせ、浅く呼吸する休止状態にしておこうと思う。請求書への支払いはまだ残っている。そしてこの美女がよく休んで、再び若返って目覚めたとき、この町はもはや美女を認識できず、求められても必要とされてもいないのかもしれない。
(執筆:Gabrielle Hamilton, プルーンオーナー)
(C)2020 The New York Times News Services
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