飲食店を「倒産」させるコロナより深刻な問題 NY名店オーナーが20年来の店をたたむ理由

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つまり、ブロガーや仲介者、「インフルエンサー」やブランドマネージャー、「インスタ映え」のためだけに雇われたパーソナルアシスタント、フード&ワイン・フェスティバル、私たちシェフが定期的に招待され、チャーミングだがリサーチ不足な意見を言っておけばいい多数のトークショーだ。

テレビ番組やYouTubeチャンネル、料理コンテスト、シーズンごとに登場する新しい番組で、アイドルがフットボールの形をした焼き型に包装されたシナモンパンを詰めたりするのを見るたびに愕然とする。

「あの子」に伝えたいこと

ああ、それにブランチ、ブランチときたら!パンケーキ1つ、ブラッディ・マリー1杯の写真を撮ってインスタグラムにアップするためだけに、客は毎回スマホを取り出す。店にぶらっと入ってきてサングラスを外そうともしない男は、何も言わずに女性店員に指を2本立て、2人分のテーブルを要求する。見るからに純血種の小型犬たちは膝にのせられ、ご主人が日曜の午後からエッグ・ベネディクトなんぞ食べたからといって不安症など起こしてしまわないよう、店の出入りを許される「介助動物」としてお役目を務めてっていうんだから。

営業停止令が出された最初の日に電話をかけてきたあの子には、たとえ何カ月かかってもレストランの再開が許可されたら、電話をかけ直してきてほしい。そうしたら私はほがらかに誠意を持って彼女に答えられる。「いいえ、ブランチは営業していません。ブランチはもうやっていないのです」と。

私は、この街の数百ものシェフたち、アメリカ中の数千ものシェフたちと同じく、自分たちのレストランや、キャリア、生活を取り戻したとしても、それがこの先いったいどうなってしまうのかという問題に今向き合っている。

誰に従い何を考えるべきかわからない。「テイクアウトをやるべきだ!ギフトカードを売るべきだ!宅配をするべきだ!SNSに参加しろ!食料品店に変えるべきだ!価格をあげろ、『ヴィア・カロタ』ではヨーロッパスズキが56ドルだ!」と皆が言う。

私は自粛期間中、何分も、何日も、何週間も考え込んでいた。果たしてそうすべきか?それがプルーンのやるべきことで、なるべき姿だろうか?

自分が一晩中、仲介業者の宅配注文画面からオーダーを読み上げているのを想像してもワクワクできない。自分の料理を詰めたテイクアウトボックスに殴り書きして、それが匿名の誰かに、貧しい配達人が安全にきちんと届けてくれるのを願うことも想像できない。人々がアプリで注文して受け取り、消費できるものを作ろうと、ぼーっと座ってメニューやカクテルを考えたり、自分の料理リストに思いを馳せたりすることは、私にはできない。

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