飲食店を「倒産」させるコロナより深刻な問題 NY名店オーナーが20年来の店をたたむ理由
もはやこれまで、とは感じていないし、自分が望めばこれはただの一時停止に過ぎないと確信している私は、何と妄想じみた発想をしているのだろうか。投資家に借りはないし、仕入先にも信頼されている。 もしビルの組合が私を強制退去させれば、代わりのテナントを見つけるのに苦労するだろう。
とはいえ、もと通りに立ち直れるのはほんの一握りだということは分かっている。それは決して悪いことではないと思う。おそらく私の友人であるシェフ、アレックス・ラージが言うように、改善するチャンスとなるだろう。
イーストビレッジの大変化
飲食店の経営コストが上昇していることを踏まえ、どのように経営を続けていくかという話は何年も前から俎上に上がっていた。コロナウイルスは未知の脆弱性に突然光を当てたのではない。私たち誰もがかなり前から知っていた。
ここ5〜6年は憂慮すべき事態となっている。飲食店にとってコロナウイルスによる強制休業は、無保険のときに突然降りかかる口腔外科手術や盲腸炎手術のようなものだ。この休業は最も脆弱な者に打撃を与える。しかし、私たちの中で誰が最も脆いのかは明らかでない。
プルーンがイーストビレッジにオープンして以来、この地区は飲食業界全体を極めて正確に反映するように大きく変化してきた。
私の店の入り口から半径10ブロック以内に、創業100年以上になるラス・アンド・ドーターズとカッツデリカテッセンがある。こじんまりしたファラフェル屋、タピオカドリンク店、餃子屋がある。マイアミでもレストランを経営しているシェフのステーキハウスがある。手頃な寿司、珍しい高級おまかせ寿司、日本の家庭料理、うどん専門店、そば屋がある。チップ制度をなくした経済的正義を志す、女性が所有・経営するレストランがある。
フードネットワークで最も有名なシェフ、ボビー・フレイは2番街を超えた先に125席の店を持つ。3ブロックごとに「ファーム・トゥ・テーブル(産地直送)」をテーマにした店があり、メジャーなジェームズ・ビアード賞の受賞店いくつかに加え最終選考に残った候補店が十数店ある。創立わずか2、3年の大人気ベトナム料理店マダム・ボーを含む、ニューヨーク・タイムズで紹介された1つ星および2つ星レストランがある。
一般的な伝統のだしを今や店の名前にすることによって、人々に知らしめブロードへと生まれ変わらせたマルコ・カノーラは、そのキャリアの中で数冊のレシピ本を出版し、テレビの健康番組にも出演した。カノーラは今でも、1番街にある創立17年のハースという唯一のレストランを経営している。
しかし、レストランがとめどなく増え、長い月日が経つ間に、私が名前を覚える前に、消えてしまう店も出てきた。新型コロナウイルスがニューヨークの飲食店を破滅させるとしても、どこがウイルスのせいでつぶれたのか、どこが資金や経験が足りず開店から16カ月以内に倒産を避けられないタイプの店だったのか、知りえるだろうか。