農家さんには「品質を上げる努力は絶対にしてもらわなければいけないけれど、安定供給のために、無茶しなくてもいいですよ」と伝えています。やはり安定供給を図っていこうとすると、環境への負担の大きい手段を取らざるをえない場面が出てくるので、そこはいろいろ工夫して乗り越えていこうというスタンスです。
三神:量的な満足ではなく、質的な満足を追求することで、お客様との長期的な関係を揺るぎないものにしていると。これは今回の危機の乗り越え方として、大変勉強になる言葉です。
規模を大きくするとスケールデメリットもある
小野:農業の世界は特殊で、一般的に製造業だと、スケールメリットという言葉が使われます。ところが、環境保全型の農業を目指す場合、スケールデメリットがあり、大きくすると、そこに台風が来たり、病気が発生したりすると一気に出荷できる量が減ってしまいます。われわれは規模の小さい農家とたくさんパートナーシップを組んでいるため、一般的には非効率だと言われますが、一方でこれがリスク分散になります。それが今回生きていると感じています。
三神:しかも、小規模のお客様と分散してお付き合いされているのに加えて、1戸当りの農家も作付けをいろいろ分散させようというアドバイスをされていて、究極のリスク分散になりますね。
小野:それは、農業、特にオーガニック系の農業の世界では、昔から大事にされてきた発想で、自分のオリジナリティーではなく、先人たちの知恵をお借りしてやっているという感じです。
三神:コロナの影響で海外に見られる事象ですが、健康への関心が高まっています。免疫を高めるために、オーガニックや栄養価のより高い信頼できるビタミンを摂ったほうが良いという、食に対する意識の見直しが世界的に起きています。
新規のお客様は、単に買い物に行けないからデリバリーなのか、顔が見える生産者から買おうという意識が高まっているのか、どちらでしょう?
小野:後者です。弊社に、安さや利便性などを求めるお客さんは少ないと思います。新型コロナウイルスの影響で、新規のお客様は「これを機に」という言葉を使う方がとても多いです。
三神:「坂ノ途中」は農業というリスクの大きい分野の事例ですので、農業よりもリスクコントロールが簡単な領域にも、応用できる話ではないかと思います。実際に農業以外でも、伝統的な産品や地方の産品について、長い目でファンクラブを作っていく。それによってお互いの安定的な取引を支えていくという“株主的消費”は、実は前から生まれています。今回をきっかけに、こういった仕組みがまた伸びていくのではないでしょうか。
(構成:二宮 未央/ライター、コラムニスト)
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