K-POP旋風牽引「BTS」愛読書に学ぶ5つの知恵 アフターコロナ時代に自分を磨く方法
例えば『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ、斎藤真理子訳、筑摩書房)、『私は私のままで生きることにした』(キム・スヒョン、吉川南訳、ワニブックス)などは日韓両国で話題の書となった。
メンバーのV(テヒョン)が2018年に福岡公演を終えて帰国した際に空港で手にしていた姿がツイッターなどで拡散され、人気に火がついた本もある。それが『世界の古典と賢者の知恵に学ぶ言葉の力』(シン・ドヒョン ユン・ナル著、拙訳、以下、『言葉の力』)だ。たちまちベストセラーとなり、「さすがは言葉を大切にするテテ(Vの愛称)」などとアーミーの間で大きな話題になった。
内容は、老子、釈迦、孔子、イエス・キリストからソクラテス、サルトルに至るまで、古今東西の哲学者・思想たちのきらりと輝く一言を紹介しながら、言葉と心を磨く法を解説した、なかなか硬派な1冊だ。だが、BTSのすべてを理解したいというアーミーたちには、むしろチャレンジ精神をかき立てるのかもしれない。
コミュニケーション力を鍛える5つのポイント
以下、『言葉の力』に登場する哲人たちの言葉を噛み砕いて紹介しながら、アフターコロナ時代のコミュニケーション力を鍛える5つのポイントを考えてみたい。
「水は方円【ほうえん】の器に従う」──これは古代中国の哲学者・荀子【じゅんし】の言葉だ。つまり水は四角い器に入れれば四角くなるし、丸い器に入れれば丸くなる。同様に、言葉を変えるには、言葉を入れる器、つまり自分という人間を磨かなくてはならない。しかし、自分を磨くとは、「善人」になって世間から認められることではない。自分自身をよく理解し、フランスの哲学者ミシェル・フーコーが述べたように、自分を愛して、世界に1つだけの「芸術作品」としてつくりあげることだ。
老子は「世界よりも自分を愛する者にこそ、天下を託すことができる」と言った(BTSのアルバム『LOVE YOURSELF』四部作のタイトルは、もしかしたらこの老子の言葉から着想したのかもしれない)。世のために自分を犠牲にするという者は、他人にもその犠牲を強いることになる。逆に、自分を大切にすることができる人間こそ、他人の大切さも知っているからだ。
インドの教典『バガヴァッド・ギーター』には、感覚よりも心が、心よりも知性が重要だと書かれている。どんなに善良な心を持っていても、それを支える知性がなくては、むしろ悪い結果につながることもある、という意味だ。いい会話をしたいと心から願っていても、相手のことを深く理解しなくては会話はうわべだけのものとなり、実のあるものにならない。知性を身につける最良の方法は、何と言っても読書だ。
では、どのような文章を読めばいいのか。もちろん美しい世界を描いた文学は、読んで心地よいものだ。しかし、ドイツの劇作家ブレヒトは言った。「インチキ画家(ヒトラー)への怒りこそが、私に詩を書かせる原動力だ」と。社会の裏側をえぐり出すような不快な文章、自分とは違う考えで書かれた独自の視点を持った文章が、あなたを思考へといざない、世界を広げてくれるのだ。
パラダイムという用語は、アメリカの科学哲学者トーマス・クーンが考えた言葉だ。学問というのは、必ずしも段階的に発展するものではない。何かのきっかけで、科学者のコミュニティーに常識として受け入れられている思考体系が、一気に転換することがある。その例が、天動説から地動説への転換だ。
もしかすると、私たちも今、パラダイムの転換を経験しているのかもしれない。技術的には多くの職種でリモートワークがすでに可能な段階にあったにもかかわらず、私たちはさまざまな理由をつけて、満員電車に乗ってオフィスに出勤していた。ところが新型コロナの流行とともに、そのような「常識」は一気に崩れ去った。これは産業革命以来続いてきた、都市に密集してものづくりに励むという労働形態が根本から変わることを意味する。
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