「親を看取る怖さ」に震えた娘が探し出した"道" 心穏やかにその日を迎えるためにできること

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父を看取った娘の葛藤、軌跡とは…(写真:筆者撮影)
人はいつか老いて病んで死ぬ。その当たり前のことを私たちは家庭の日常から切り離し、親の老いによる病気や死を、病院に長い間任せきりにしてきた。結果、死はいつの間にか「冷たくて怖いもの」になり、親が死ぬと、どう受け止めればいいのかがわからず、喪失感に長く苦しむ人もいる。
和泉陽子(仮名、61歳)は、96歳の誕生日を迎えた父親が「すい臓がんで余命は短い」と、医師から突然告げられた。姉弟2人だけで父を無事に送れるのか。考え出すと怖くてたまらず、臨終での経験が豊富で、自分たちの不安な気持ちをも支えてくれる存在として、看取り士の派遣を考えた。
看取り士の仕事は、家族で老いた親に触れて、抱きしめ、多くの思い出を共有して「温かい死」を迎えてもらうこと。今回は和泉陽子が怖がっていた父親の看取りを、心穏やかに終えた過程をたどる。

父の余命告知後は「怖くてたまらなかった」

2019年春、父親の96歳の誕生日を姉弟2人で祝った。和泉陽子は東京から実家のある名古屋に戻り、3人で囲む夕食だった。一見穏やかな家族だんらんだが、姉弟の心中はまるっきり逆だった。

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「かかりつけの在宅医から父の食欲がないと聞き、市民病院でその日精密検査を受けてもらったんです。すると進行性のすい臓がんで、いつ、何があってもおかしくない状況だと、担当医から突然言われました」(陽子)

当日の父親は、果物や和菓子を少し口にする程度で、食欲はめっきり落ちていた。だが、痛みや吐き気など、がんに起因する自覚症状は一切なし。手術はせず本人には病名も伝えない、と姉弟で即決した直後の夕食だった。

「父は脚の脛(すね)がとても細くなっていました。治療も投薬も一切しないとなると、このまま木が枯れていくように、全身がやせ細って最期を迎えるのかと思うと、私はもう怖くて、怖くて……」

元国際線の客室乗務員だった陽子は、色白な細面のつぶらな瞳で当時の心境を振り返る。

約10年前に80歳の母を、病院で看取ってはいた。だが、そのときは元獣医の父親がそばにいてくれた。今度は姉弟だけでやりとげなくてはいけない。

「本当に自分たちだけで、できるんだろうか。ショックのあまり、自分が自分でいられなくなるんじゃないか……。もう考え出したらキリがないんですよね。私たちの気持ちを支えてくれる第三者が、どうしても必要でした」(陽子)

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