年金開始「60歳vs.65歳」、受取り額逆転は何歳か 繰り上げ受給の「落とし穴」はいくつもある
公的年金制度には、亡くなった人の家族のための遺族年金もあり、高校卒業までの子(または一定の障害のある20歳未満の子)がいる場合に支給される遺族基礎年金、厚生年金加入期間のある人が亡くなった場合に支給される遺族厚生年金があります。60歳代で遺族年金を受ける場合、そのうち遺族厚生年金を受給する場合がほとんどですが、老齢年金の繰り上げに当たって、遺族年金との関係でも注意点があります。
遺族厚生年金は、亡くなった人の老齢厚生年金のうち報酬比例部分の4分の3として計算されます。会社員であった夫が亡くなった場合の妻に支給されることが多く、夫が会社員期間(厚生年金加入期間)の長い人であれば、妻への遺族厚生年金として計算される額も多くなります。
65歳前に遺族厚生年金を受けられるようになった妻の場合、65歳まで中高齢寡婦加算58万6300円(2020年度の年額)が加算されることがあります。ただし、遺族厚生年金(+中高齢寡婦加算)と、繰り上げした妻の老齢年金は、65歳までいずれか選択となります。両方は同時に受給できません。
繰り上げた後に遺族厚生年金を受けられるようになった場合で、遺族厚生年金の額が繰り上げた老齢年金の額より高い場合は、65歳まで遺族厚生年金を選択することになるでしょう。仮に、60歳0カ月で老齢年金の繰り上げ受給を開始し、その後62歳0カ月で遺族厚生年金を受ける権利が発生して遺族厚生年金を選択受給するようになった場合であれば、62歳から65歳までの3年間は、繰り上げた老齢年金はまったく受けられなくなります。
「自営業の夫」の妻は寡婦年金を受給できなくなる
65歳以降に関しては、老齢基礎年金、老齢厚生年金は遺族厚生年金と併せて受給することが可能ですが、遺族厚生年金は老齢厚生年金の額に相当する部分が受けられないだけでなく、繰り上げにより老齢年金は引き続き減額されたままとなります。
老齢年金を60歳で繰り上げた場合の累計額に、65歳から受け始めた累計額が追いつくのが76歳8カ月(改正後は80歳10カ月)と述べましたが、繰り上げ受給の開始後、60歳代の前半のうちに遺族厚生年金を選択受給するようになった場合、選択受給しない老齢年金と遺族厚生年金を含めて累計額を考えると、それよりも早く「逆転年齢」が来ることになります。老齢年金の繰り上げの時期、遺族厚生年金の受給開始の時期しだいでは、60歳代で追いつき、逆転することもあります。
その他、自営業の夫が亡くなった場合に妻が受けられるはずだった寡婦年金(60歳以上65歳未満の妻が対象)が、老齢年金の繰り上げ受給によって受けられなくもなります。夫が繰り上げ受給中に亡くなった場合、逆に、妻自身が繰り上げ受給しているときに夫が亡くなった場合、いずれも妻は寡婦年金が受けられません。
このように繰り上げ受給については注意点が多くあります。繰り上げ減額率について1カ月0.5%から1カ月0.4%へと改正の予定もありますが、繰り上げ受給をする際は減額率以外の注意点もよく理解したうえで請求を行う必要があるでしょう。
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