コロナが露わにしたビッグ・データという幻想 ポスト・グローバル化時代の「生命」と「情報」

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この場合、ペスト菌はチンギス・ハーン後のモンゴル軍のヨーロッパ遠征――ある種の‟グローバリゼーション”――を契機に中国方面からユーラシア大陸経由で伝わったとする説が有力である。そしてこのペスト大流行は、ヨーロッパの中世世界を揺るがし、やがて近世そして近代を準備する遠因となった。

その後の歴史を駆け足で追うと、続く16世紀にはヨーロッパで梅毒が大流行したが、これはコロンブスの一団がアメリカ大陸から持ち帰ったとされている。

また同世紀から17世紀にかけては、逆にスペインからの征服者が中南米に天然痘を持ち込み、これによってアステカ文明が滅んだと言われる。

さらに19世紀にはインド発のコレラがヨーロッパなど世界で大流行したが、これは産業革命以降の工業化による都市の衛生状態の劣化や、労働者の貧困に伴う生活環境の悪化等も関与していた(20世紀に広がった肺結核なども同様である)。

また、今回のコロナの関連でよく引き合いに出される1918年から1920年のスペイン・インフルエンザ(スペイン風邪)の大流行は、言うまでもなく第1次大戦における、大量の兵士の国境を越えたグローバルな移動(およびその置かれた環境の劣悪さ)が背景だった。

感染症をめぐる歴史から気づく2つのポイント

以上は感染症をめぐる歴史の一端の確認に過ぎないが、こうした概観だけからでも気づくこととして、以下の点があるだろう。それは第1に、感染症の勃発は何らかの意味の「グローバル化」と関係しているという点である。

感染症のもととなる細菌やウイルスは、もともと存在する地域においてはその場所の風土に適応する形でいわば“大人しく”人間ないし動物と共存している面があるが、遠距離あるいは大規模な人の移動に伴ってそれがまったく別の場所に移されると、その場所にいる人間には当該細菌ないしウイルスへの免疫がないこともあって、爆発的に広がる可能性があるのだ。

実際、現在に続くパンデミックの歴史の起点をなすのが14世紀のペスト大流行であり、これは先ほど見たように、モンゴル軍のユーラシア大陸横断と関わっており、後の近世(スペインのアメリカ進出)、近代(イギリス・フランス等のアフリカ、アジア進出)への‟プレリュード”ないし「幕開け」のような位置にあるとも言える。

そして、こうした「グローバル化」の進展の流れの極に今回のコロナ・パンデミックがあるという把握が可能だろう。

第2に、以上の「グローバル化」とも関連するが、コレラや結核などの例に顕著なように、感染症の爆発は、格差・貧困およびそれに伴う都市の衛生状態あるいは生活環境の悪化と密接に結び付いている場合が多いという点である(この点は前回記事でもふれた)。

この背景には、近代以降の急速な工業化の進展、あるいは資本主義の展開ということが働いている。

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