「学費を稼ぐアルバイトや、店舗運営を支えてくれたフリーターの生活が厳しくなるのは重々わかってはいるんです……。でも家賃が払えないと店を畳まないといけなくなる。ごめんなさいとしか言いようがなかった」と、代田さんは肩を落としました。
また寿司店主の江口さん(仮名)は「銀座で寿司職人をやって18年目になるが、こんなの初めて」と、人が消えた銀座の現状をこう語りました。彼も店を維持するために、7人の従業員のうちコアな職人以外の3人のアルバイトを、泣く泣く今回契約で雇い止めすることにしました。
「ゆくゆくは社員にして店を任せたい若者もいました。戻ったら、また一緒にやろうと声をかけてはいますが、こんなことをした会社に戻ってきてくれるのか……」と、江口さんはやるせない表情を浮かべました。
経営者たちが、簡単に雇い止めをしているわけではないのです。かわいがっていた、あるいは仲間として大切にしていた従業員を守りたくても、店自体を維持しようとすると家賃を優先せざるをえない。飲食業界のオーナーの苦渋の決断が伝わってきます。
飲食業界を支える非正規にしわ寄せ
筆者が運営するツナグ働き方研究所の調査で、緊急事態宣言を受けて勤めている職場がどのような対応をとるか聞いたところ、代田さんのように「当面の間完全休業する」と回答した飲食店は27.0%。「なんらか限定して営業する」46.1%と合わせると7割以上の飲食店の営業に影響が出ていることになります。
また、「なんらか限定しながら営業する」と回答した中では、営業時間を限定するより、むしろ江口さんの寿司店のように「従業員を限定して営業する」という回答が目立ちます。売上減の中、人件費を圧縮せざるをえない力学が働き、アルバイトなど非正規で働く人の仕事が減っていることが如実に現れています。
併行して行った「全国の時給で働く1000人調査」によると、飲食業界に勤める人の中で仕事が減ったのが49.4%。このうち「収入が減って困る」と回答したのが79.0%。一方で「コロナウイルスが心配だから助かる」との回答は8.6%にとどまっています。感染リスクより収入減を案じる声が圧倒的でした。
「店はしばらく自分だけで回すから、当分シフトには入らなくていい」。下北沢のカフェでバイトするフリーターの和田さん(仮名・25歳)は、オーナーからそう言われ、ここ2週間休んでいます。「コロナに感染するリスクもあるから休んでもらうって言ってたけど、給料を払いたくないんだと思う。こっちは感染とか気にしてたら、ご飯食べれない……」と、和田さんは途方に暮れながら、いったん福井の実家から送金をしてもらうことで凌いでいます。
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